心臓・血管・血液の病気/大動脈の病気・大動脈瘤・大動脈解離

C-C-Bの渡辺英樹さんを襲った「大動脈解離」とは?(2ページ目)

ミュージシャンの渡辺さんを襲った病気・大動脈解離を解説しました。大動脈解離は大動脈の壁が内外へ裂けて起こります。しばしばいのちの危険がある病気です。直ちに手術が必要なA型と、血圧調整などお薬で治せるB型があります。強い胸痛や背部痛を感じたら直ちに救急外来のある病院へ。それがいのちを救う最短コースです。予防には血圧調整や禁煙などがあり平素の健康管理が大切です。

米田 正始

執筆者:米田 正始

心臓血管外科専門医 / 心臓病ガイド

渡辺さんの場合は……

さて、渡辺さんの場合はどうだったのでしょうか。報道ではあまり多くの記載がなく、情報が得られません。ただ55歳というまだまだお若いご年齢ですし、もしA型なら、何か特別な理由がなければ緊急手術で上行大動脈を人工血管で取り替えるなどすることが普通です。それによって救命できることが多いからです。

渡辺さんは6月12日に緊急入院され、手術を受けられたという報道が見られないため、おそらく手術の必要がないB型であったものと推察されます。

しかしその後、多臓器不全をおこして1か月後にお亡くなりになっているということから、解離が進んで大動脈の枝が詰まり、内臓がやられて死に至ってしまったという可能性が考えられます。

実際、大動脈解離によって起こる他臓器の問題としては以下のものが知られています。

胸部では狭心症、心筋梗塞、心タンポナーデ(血液が心臓の周りに貯まって圧迫します)、縦隔血腫(胸の中ほどに血の塊りが貯まります)、上大静脈症候群(圧迫のため上半身からの血液が停滞します)、脳虚血、嗄声・嚥下障害、上肢虚血、胸腔内出血、対麻痺(下肢などが動かなくなります)など、腹部では腹腔出血、腸管出血、麻痺性イレウス(腸が動かなくなりお腹が張ります)、対麻痺、後腹膜血腫、腎不全、下肢虚血(下肢が痛くなり色が変わります)などさまざまな臓器や部位にわたります。

一般の方々にはこれらを覚える必要はまったくなく、全身あちこちに障害が起こることがあると考えていただければ良いでしょう。

B型解離でもしばらくの集中治療ののち元気に退院されるケースが多いため、渡辺さんは通常とは違う、不運なケースであったのかもしれません。

予防するにはどうすれば

入院されてからの経過はともかくとして、入院までに、解離が発生するまでにできることはなかったのでしょうか。

大動脈解離の予防はまだまだ課題が多くありますが、少なくともやって良いことはいくつかあります。たとえば血圧の管理です。平素から血圧を記録し、これを血圧手帳に記録してかかりつけの医師に見てもらうのです。これによってより正確な血圧管理ができます。

血圧はできるだけ「起き抜け」、つまり朝、起床した直後が望ましいのです。朝食や散歩した後からとなると、からだがウォームアップされて動脈が緩み、血圧が下がります。もっとも高い夜中明け方の血圧の管理には不正確な情報となってしまうのです。ということで起き抜けの早朝血圧を毎日記録することが役立ちます。平素の定期検診は大動脈解離には万能とは言えなくても勧められます。

そして禁煙や平素のコレステロール・中性脂肪などのコントロールなども有用です。マルファン症候群や大動脈二尖弁などの結合組織疾患をお持ちの方は定期的に専門家の診察を受け、CTなどの検査を受けておかれると安心度が高まるでしょう。

終わりに

大動脈解離の治療成績は年々改善される方向にあります。しかし、まだまだ死亡率が高い病気です。予防や診断、治療を含めた医学の進歩が必要です。この記事が皆さんの健康に多少でも役立てば幸いです。

渡辺英樹さんのご冥福をお祈り申し上げます。


■参考文献

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