インクジェット・プリンターで新たなモデルを開拓したキヤノン
次に具体的な企業活動を例示しながら、実際に存在するビジネスモデル上の工夫を見てみましょう。まずは製造業のビジネスモデルで、大きく異なる二つのモデルを紹介します。一般的な製造業タイプでは、製品を完成させそれを消費者向けに販売してしまえばそこでビジネスモデルは完結し、同じ消費者に購買を促すにはその商品が故障あるいは老朽化による買い替えを待つことになります。この場合、製品寿命が長ければそれだけ買い替えサイクルは長くなり、このモデルでは自社の製品品質の向上が自社の収益機会を減じるというジレンマが起こるのです。
それに対して、製品購入者が製品利用時に必要となる消耗品を売ると言うビジネスモデルが存在します。代表例はアナログカメラ時代のフィルムメーカーがそれです。カメラを購入し使用する人がいる限りフィルムは一定量以上必ず売れ続けるという、長期安定型ビジネスモデルなのです。
キヤノンに念願の長期安定収益モデルをもたらしたインクジェットカセット
このビジネスモデルが奮っているのは、自社でプリンター本体を開発しますが、本体そのものは利益度外視の安価で販売し利用者の増加をはかった点。同時に消耗品のインクカセットを自社製造自社販売することで、念願の長期安定型ビジネスモデルを完成させたのです。このモデルにヒントを得た発展形とも言えそうなものが、ここ最近増加傾向にある「無料ビジネス」でしょう。代表例は、IT機器を無料で提供し一定期間の継続縛りをつけた通信契約をセットすることで、通信料で機器代金を埋め合わせかつ長期安定的な収益を得ると言うモデルなのです。
後発企業が差別化ビジネスモデルで地位を築いたモスバーガー
次に、後発業者が同業の先発企業とはビジネスモデルを変えることで市場シェア確保した例をひとつ。日本におけるファーストフードとしてのハンバーガーチェーンのはしりは日本マクドナルドですが、後発の同業者が同じビジネスモデルで続々参入する中、ビジネスモデルでマクドナルドとの差別化をはかることで、独自の地位を築いたのがモスバーガーでした。これは製造業タイプによくあるオンデマンド・モデルと言われるものです。製造業のオンデマンド・モデルは、オーダーを受けてから製品を作ることで不良在庫を作らないという在庫効率のメリットを追求したものですが、モスバーガーの場合はこのビジネスモデルを上手に飲食に取り入れました。「注文を受けてからお作りします」という、大量生産モデルを基本とするファーストフードの常識を逸脱し、オーダーメイドの丁寧なイメージづくりを徹底したのです。これにより後発でありながら、マクドナルドやその他追随チェーン各社との差別化に成功し、不動のシェア第二位を確保するに至ったのです。
この他にもビジネス界にはまだまだたくさんのビジネスモデルが存在しますが、インターネットの登場とも相まって、今やビジネスモデルは単に収益を生むためのパターンづくりにとどまらず、個性や魅力を感じさせる成長企業たちの戦略的なおもしろみに溢れています。裏を返せば、今は斬新なビジネスモデルの生成こそが人々の注目を集め、事業の成否のカギをも握る時代であるとも言えるのです。