過去問から探る、行政書士試験「民法」の特徴
民法は条文や判例が多く、受講生が最も苦しむ科目です。どんなに勉強をしても満点をとるのは難しいと思いますが、出題傾向を踏まえて勉強すれば、合格に必要な点数を得点することは可能です。分量が多く、最も効率性が求められる科目ですので、過去問をしっかりと分析しましょう。
民法の一般的分類である、総則(1条~174条の2)、物権(175条~398条の22)、債権総論(399条~520条)、債権各論(521条~724条)、親族・相続(725条~1044条)に従って、2014年から過去5年間の過去問分析をしてみます。
択一式の民法9問の出題数は以下の通りです。
- 総則:2問
- 物権:2問(但し、2013年:1問)
- 債権総論:平均1問程度(2012年:0問、2010年・2011年・2013年:1問、2014年:3問)
- 債権各論:平均3問程度(2014年:1問、2010年:2問、2011年:3問、2012年・2013年:4問)
- 親族・相続:1問(但し、2010年:2問)
このように、択一式の出題数は、総則2問、物権2問、親族・相続1問はほぼ確定しています。一方で、債権の総論と各論は出題数にばらつきがありますが、債権各論からの出題数が多いことがわかります。
受験生は民法の勉強を総則から順番にしていきます。そうすると、後半の分野は繰り返す回数が少なくなり、不得意になる傾向があります。債権各論はこの危険性をはらんでいます。しかし、出題数から考えると、債権各論は真っ先に勉強しなければいけない分野です。そこで、民法を一巡したら、二巡目は、債権各論・総論から逆の順番で勉強していく方法なども検討してください。
次は記述式の出題実績です(なお、2011年問題46は、総則と債権各論の双方からの出題としてカウントしています)。
- 総則:2問(2011年:問題46、2013年:問題45)
- 物権:2問(2011年:問題45、2013年:問題46)
- 債権総論:4問(2010年:問題45と問題46、2012年:問題45、2014年:問題45)
- 債権各論:2問(2011年:問題46、2014年:問題46)
- 親族・相続:1問(2012年:問題46)
このように記述の出題数は、債権総論からの出題が突出しており、他の分野からはバランスよく出題されています。
この分析で大事なことは、記述の勉強方法です。受験生は、択一の勉強を優先させて記述の勉強を後回しにする傾向があります。その記述の勉強も民法の配置どおり、総則から始めるのですが、総則・物権で力尽き、債権総論・各論までしっかりと勉強をしていない人が目立ちます。記述の勉強に関して言えば、債権総論を真っ先にするべきでしょう。
「民法の過去問はやる意味がない」というのは本当でしょうか。
受験生がよく口にするのは、「民法は過去問をやってもできるようにならない」とか、「民法は過去問からあまり出題されない」など、総じて言えば「民法の過去問はやる意味がない」という主旨の発言です。まず、「民法は過去問をやってもできるようにならない」という説について考えてみましょう。そもそも受験生が比較の対象としているのは、行政法です。同じ主要科目である行政法は、過去問からほぼ同じような問題がよく出題されるので、このようなことが言われるのでしょう。
行政法は、過去問を丸暗記すれば解ける問題も出題されます。しかし、民法は、過去問を丸暗記しても解ける問題は極端に少ないのです。つまり、民法の勉強方法は行政法と同じではいけないということです。科目によって勉強法を変えることが大切です。ではどう変えればいいのでしょうか。過去問をみてみましょう。
次の統計は、2014年から過去5年間の行政法と民法における、事例問題の出題数と出題割合です。なお、事例問題とは、文頭の問題文や選択肢においてA・B・Cなどの表記があり、問題を解くにあたって作図する可能性があるものです。
- 2010年:行政法1問(5%)、民法9問(100%)
- 2011年:行政法1問(5%)、民法6問(66%)
- 2012年:行政法3問(16%)、民法5問(55%)
- 2013年:行政法2問(10%)、民法5問(55%)
- 2014年:行政法3問(16%)、民法4問(46%)
このように民法は学んだ知識が事例化(具体例)されて、出題されることが非常に多いということです。これは、ある条文を学んだとして、行政法はそのまま条文が出題されるのに対して、民法は条文が事例化されて出題されるということです。従って、民法は単純に知識を暗記するだけでは得点できない可能性が高いのです。
そのため、民法は知識を具体化して身につけることが重要です。その際、事例を頭に思い浮かべるだけでは不十分で、作図をしなければいけません。この勉強方法は記述の対策にもつながります。
次に、「民法は過去問から出題されない」との説を考えてみましょう。確かに、行政法と比べると、過去問の踏襲性は低いと思います。しかし、例えば、2012年問題33選択肢3と2013年問題32選択肢オのように、過去問を踏襲した出題もあります。よって、民法は過去問から出題されないとの説は誤りです。
民法・分野ごとのポイント
■総則:「代理・取消権(取消原因も含む)・時効」代理(平成21年、24年)、取消権(平成23年、26年)、時効(平成21年、22年、23年)の3つが出題の主力です。民法総則は過去問の踏襲性が他の分野に比べると高い印象を受けます。過去問をしっかりと勉強して、周辺知識の吸収にも力を入れてください。
■物権:「物権変動、即時取得、抵当権」そして「共有」
出題数は多くありませんが、出題のしやすさを考えると、上記の3つ、そして、「共有」です。その他の分野については、後回しでいいかもしれません。勉強しにくい分野ですので、あまり時間をとられないようにすることがポイントです。
■債権総論:「記述式」をしっかり
債権総論は何と言っても記述式です。もっとも、記述式は択一問題を前提にしているので、択一式の勉強をしなければいけません。受験生が一番苦しむ分野です。深入りせずに基本事項だけを押さえるようにしましょう。これが記述対策にもつながります。
■債権各論:契約は賃貸借を優先に、その他債権の発生原因も
下記のように13種類ある契約のなかから、出題されているのはその半分くらいです。問題作成のしやすさでいえば、群を抜いているのが「賃貸借」です。その次に「売買」が重要で、以下、「請負」と「委任」が並んでいると思ってください。「賃貸借」をしっかり勉強することをお勧めします。
債権各論の有名契約の過去5年間の出題実績
- 賃貸借:2012年問題33、2013年問題32
- 売買:2012年問題31
- 請負:2011年問題34
- 委任:2010年問題32
- 組合:2013年問題33
債権各論は、債権発生原因である契約・事務管理・不当利得・不法行為を勉強します。行政書士試験は下記のように事務管理・不当利得・不法行為から最低でも毎年1問、ほぼ均等に出題される傾向があります。他の国家試験において事務管理はとかく軽視されがちなのですが、行政書士試験にはあてはまりませんのでご注意ください。順番で言えば、平成27年度は事務管理か不当利得の出題の年なのですが……。
債権各論の過去5年間の出題実績
- 事務管理:2010年問題32、2011年問題33
- 不当利得:2010年問題33、2013年問題34
- 不法行為:2012年問題34、2014年問題34
■親族・相続:問題がやさしく、過去問の踏襲性が高い
親族・相続は、複雑な事例の出題はなく、単純な暗記事項に近い出題がされています。決して難しい分野ではないのですが、民法の最後に位置付けられているので、勉強が不十分な人が多く、中には捨てると公言する人さえいます。
暗記事項が多いため、過去問踏襲性が高い分野なので、過去問をしっかりと勉強すれば得点できる可能性が高まります。例えば、2010年35問選択肢イは、ほぼ同じ内容で201235問選択肢アとして出題されています。この分野を捨ててはいけません。ただし、毎年1問しか出題されない分野なので、ある程度遡って過去問を解く必要があると思います。