宅地建物取引業法詳説〔売買編〕の第22回は、第39条(手附の額の制限等)についてみていくことにしましょう。
(手附の額の制限等) 第39条 宅地建物取引業者は、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の十分の二をこえる額の手附を受領することができない。 2 宅地建物取引業者が、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手附を受領したときは、その手附がいかなる性質のものであつても、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手附を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。 3 前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。 |
手付金は2割まで
第39条は宅地建物取引業者が売主となる契約について手付金の上限額を定めたもので、その額は「代金の額の十分の二」、つまり売買代金の2割(20%)までとなっています。この場合の売買代金には消費税(および地方消費税)を含むことになっていますから、たとえば本体価額4,000万円(土地2,000万円、建物2,000万円)、消費税額100万円、売買総額4,100万円の契約なら、820万円が手付金の上限額ということになります。
しかし、実際の売買取引において20%の手付金を授受するケースは少なく、大半は10%または5%の手付金となっているでしょう。ただし、地方圏などで売買総額がだいぶ安い物件の場合には、手付金を20%とすることが比較的多いかもしれません。
中古住宅などで売主が個人のときには手付金の額の制限はありませんが、この場合でも20%を超える手付金が授受されるケースはあまりないでしょう。ちなみに、宅地建物取引業者同士の取引には第39条の適用がありません。
なお、少し専門的な話になりますが、第39条の規定は「代金の額の十分の二をこえる額の手附を受領することができない」となっていて、「受領してはならない」ではありません。これは、たとえば売買代金の30%の手付金を受け取ったとき、それがすなわち違法だというわけではなく、「手付金として主張できるのが2割まで」だと解釈されています。2割を超える分は売買代金の一部とみなす(手付金を売買代金に充当する旨の規定がある場合…通常の契約はこのような規定になっています)ことになります。
また、余談ながら第39条では「手附」という表記になっていますが、これは漢字の古い用法です。民法でも平成17年施行の改正法(現代語化を含む改正)において「手附」の表記が「手付」に改められましたが、宅地建物取引業法第39条は旧来のままで変更されていません(第41条など比較的近年に改正された部分は「手付」という表記になっています)。
手付は「解約手付」とすること
売買契約において、ごく当たり前のように授受されている手付金ですが、これには「証約手付」「解約手付」「違約手付」「損害賠償の予定を兼ねた手付」などの性格があります。証約手付
契約が成立したことの証として授受されるもの
解約手付
いわゆる「手付流し」「手付倍返し」による解除権を、売主と買主の双方が留保するもの
違約手付
買主の債務不履行があったときに、売主が違約罰として没収するもの
損害賠償の予定を兼ねた手付
当事者の一方に債務不履行があったときに、損害賠償として、手付金を支払った者は没収され、手付金を受け取った者はその倍額を支払う旨を定めたもの
一般的に、手付金の授受の目的は「証約手付」であるのと同時に、その手付金は「解約手付」であるとされ、売主と買主は互いに債務不履行がなくても契約を解除することができます。この場合、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付の放棄(手付流し)をして、売主は手付の倍額を支払って(手付倍返し、手付倍戻し)契約を解除することができます。ちなみに、このときは損害賠償請求権が発生しません。
民法でも、特約がなければ「解約手付」としてみなすことになっていますが、宅地建物取引業法第39条は、売主が宅地建物取引業者の場合において必ず「解約手付」であることを求め、買主の解除権を不当に制限することがないようにしたものです。
なお、「この規定に反する特約で買主に不利なものは無効」となっていますが、これは「違約手付」とする特約(買主に債務不履行があれば没収、その他の解除は認めない)や、手付放棄を超える支払い義務を買主に負わせる特約などが該当します(相手方が契約の履行に着手した後の違約金などは別なので注意)。
もちろん、規定に反して売主の宅地建物取引業者に不利な特約は有効ですが、売買契約書を作成するのが宅地建物取引業者である以上、そのようなケースはないでしょうね。
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