急速に悪化し、死に至ることも少なくない「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」とは
「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は、突然発症して急速に進行し、多臓器不全を起こすことがある感染症です。約30%が死亡すると言われており、致死率の高いことも特徴です。以前、国内で流行した際には、正式名称ではありませんが「人食いバクテリア」「人食いバクテリア症」と呼ばれました。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は1987年にアメリカで最初に報告され、日本国内では1992年になって初めて報告されました。なぜ劇症化するのかは不明ですが、A群レンサ球菌にはいろいろなタイプがあり、その一部が起こすと考えられています。以下でわかりやすく解説します。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の主な症状
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の主な症状は、手足の痛みと腫れ、発熱、血圧低下によるショック状態です。発症から10時間以内に、手足の筋肉や脂肪などの組織が破壊されてしまう「組織壊死(そしきえし)」、腎臓が機能低下する「急性腎不全」、肺に液体が貯まり肺の機能が低下する「呼吸窮迫症候群」、血液内に血栓が作られ、血小板や血液を固めるための凝固因子が減り、出血しやすくなってしまう「播種性血管内凝固症候群(DIC)」などを起こします。その結果、多くの臓器が機能低下または停止してしまう「多臓器不全(MOF)」となり、死に至ることも多い病気です。筋肉や脂肪などの組織が破壊されてしまう様子が、バクテリア(細菌)がヒトを食べているように見えることが、「人食いバクテリア症」と呼ばれるようになった由来です。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療法
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療法は、基本的にはレンサ球菌に対する抗菌薬の使用です。ショックに対しては輸液や輸血を行います。また、レンサ球菌が存在する筋肉や脂肪は大量に破壊されてしまうため、腎への負担から腎不全になったり、血液が酸性に傾いてしまいます。そのため、破壊された組織を速やかに取り除く必要があります。もし破壊された部分が足であれば、足を切断する必要があるということです。劇症型溶血性レンサ球菌感染症の日本国内における患者数
この劇症型溶血性レンサ球菌感染症はすべて保健所に報告されます。日本国内では毎年100~200人程の患者が確認されていましたが、2023年は過去最高となる941人が感染したと報告されています。さらに、2024年は、国立感染症研究所の報告によると、3月21日時点で昨年同時期を大きく上回る517人が感染しており、感染者数の増加が懸念されています。扁桃炎や咽頭炎、湿疹を起こす身近な菌「レンサ球菌」
細菌はいろんな形をしていますが、球菌は球状の細菌です。
レンサ球菌はグループ分けされており、人の感染症で問題になるのが、A群レンサ球菌とB群レンサ球菌の2つです。B群レンサ球菌は新生児の髄膜炎の原因になります。A群レンサ球菌による感染症は子どもに多く、4歳から9歳ぐらいまでの学童期に多く見られ、扁桃炎や咽頭炎、湿疹、舌にぶつぶつができるイチゴ舌を起こします。
近年は適切な治療により見かけることが減りましたが、リウマチ熱、急性糸球体腎炎、アレルギー性紫斑病を起こすこともありました。
※補足:リウマチ熱は、レンサ球菌に対する免疫反応の結果起こっている病気で、関節痛が中心であったことから、リウマチという名前が付いています。症状は、関節痛、発熱、心臓の弁に異常でてしまう弁膜症、輪状紅斑、けいれんのように自分の意志とは関係なく動く舞踏様不随意運動などです。
人に感染を起こす身近な細菌である「黄色ブドウ球菌」
レンサ球菌以外に身近な細菌として、ブドウ球菌があります。名前の通り球体の細菌で、ブドウの房のように集まっていることからその名がつけられています。ブドウ球菌の中にも様々な種類がありますが、人で感染を起こすのが「黄色ブドウ球菌」です。このブドウ球菌もレンサ球菌と同様、主に肺炎・扁桃炎・咽頭炎・皮膚の感染症、特に伝染性膿痂疹(とびひ)などの感染症を起こすのですが、まれに重症な病気を起こします。次の項目で詳しく紹介する「毒素性ショック症候群 」です。
菌が産生する毒素によって起こる「毒素性ショック症候群」(TSS) とは
ショックになるので、速やかに医療機関への受診が必要です
- 39℃以上の発熱
- 全身に赤い細かい湿疹から大きな湿疹が広がる
- 血圧が低下して、ショック状態になる
- 嘔吐や下痢などの消化器症状
- 激しい筋肉痛
- 腎臓の機能が低下
- 肝臓に含まれる酵素が上昇する肝機能異常
- 出血を止めるために必要な血小板の数の低下
- 意識が無くなったりする意識障害
- 発症してから1~2週間後に皮がめくれてくる落屑(らくせつ)
など。主に、15歳から35歳に多く、重症な症状のために死亡率も高い病気です。ブドウ球菌による死亡率は3%未満ですが、レンサ球菌による死亡率は20~60%です。理由は、レンサ球菌では、50%程度が後述する「壊死性筋膜炎」を起こすためと考えられています。
ブドウ球菌による毒素性ショック症候群で最も危険性の高いのが、女性の月経時のタンポン利用です。タンポンにブドウ球菌が付着し、さらにタンポンを使用することでブドウ球菌による外毒素の産生が増える可能性があります。外毒素がタンポンなどで少し傷のついた粘膜または子宮から血流へ侵入する可能性が考えられています。
診断では、皮膚やノド、尿、タンポンなどからブドウ球菌、レンサ球菌があるかどうかと、その菌が毒素を産生しているかどうかを見ます。
治療方法は、感染症が原因になっている場合は、毒素を減らすために感染症自体の治療も必要です。抗菌薬による除菌と、毒素によって起こる症状に対する対症的な治療を行います。ショックが起きている場合は、昇圧剤や輸液、輸血が必要になりますし、腎機能低下が起きている場合は、透析や毒素を減らすために、血液を交換する血漿交換などが行われます。
これらの病気はブドウ球菌やレンサ球菌の全て起こるわけではありませんが、まれに重症化することは知っておきましょう。
その他の溶連菌感染症については「溶連菌感染症の症状・原因・感染経路」もあわせてご覧ください。