妊娠の基礎知識/出生前診断・新型出生前診断

出生前診断とは? 種類・時期・費用・実施病院

出生前診断の全体像をお伝えする5回シリーズ第2回。羊水検査、絨毛検査、新型出生前診断、妊婦健診の超音波検査、専門医による超音波検査(いわゆる胎児ドック)、コンバインド・テスト、クアトロ・テストの各検査について概要をご説明します。

河合 蘭

執筆者:河合 蘭

妊娠・出産ガイド

通常の超音波検査は「誰もが受ける出生前診断」

一口に「出生前診断」といっても様々な種類があり、費用も実施時期も異なる

一口に「出生前診断」といっても様々な種類があり、費用も実施時期も異なる

出生前診断についてお伝えする5回シリーズの第2回です(第1回「賛成? 反対? 出生前診断の歴史と意義」から続きます)。今回は出生前診断の種類や実施時期、費用などについて解説します。

まずは最も身近な検査である超音波検査からご説明しましょう。妊婦健診として行われている超音波検査は、誰でも受ける出生前診断です。

超音波検査は赤ちゃんの大きさや心拍の確認をはじめ羊水量、胎盤などとてもたくさんのことを調べますし、赤ちゃんの身体が内臓や骨まで見えますから病気が見つかることもあります。このように、出生前診断は、正確にいえば、妊娠すれば誰でも受けているのです。

ただ、超音波検査には、2種類あると思ってください。誰でも受ける一般的な検査と、胎児超音波の専門医が行う専門外来(もしくは専門施設)で行う検査の2種類です。

一般的な超音波検査で妊娠初期に見つかる疾患としては、大きな形の変化が見て取れる重篤な疾患があげられます。内臓や骨、四肢などの形や大きさが違う、本来の位置にないなどといったことに医師が気付けば、さらに精密な超音波検査が行える専門医に紹介されるかもしれません。

染色体疾患は先天性疾患全体の約4分の1を占めますが、大きな形の変化は見られないことが多く、一般的な超音波検査ではわかりにくいグループです。

しかし海外では、NT(首の後ろのむくみ)の厚みなど、染色体疾患と関連性のある指標を用いて確率を算出する方法が普及しています。これは、日本の一般的な産婦人科では正確に判断することはできません。学会の示すガイドラインでも、今、日本の産婦人科医には、NTを妊婦健診で調べる義務はないとされています。

胎児超音波の専門医による超音波検査 (胎児ドック)は、どこが違う?

一方、専門外来、専門施設で行われる超音波検査のほうは、専門的なトレーニングを受けた医師が、長い時間をかけて行います。使用される検査機の性能も違います。ですから、より多くの疾患を、より早い時期から見つけることができます

海外では、超音波検査は妊娠中に1回から数回しか行わないかわりに、この専門的な胎児超音波検査が実施されている国が多いのです。妊娠初期に、染色体疾患を調べる検査も含めた形で行います。

この検査技術の正式なトレーニングは英国の胎児医学機構(Fetal Medecine Foundation;FMF)がオンライン学習システムを使って提供しており、正しい画像が描出できていると認めた受講者にはライセンスを発行しています。ラインセンスが得られると、その受講者には、染色体疾患のある確率を算出するソフトウェアのダウンロードが許可されます。

英国では、羊水検査は超音波検査の結果によって検討する

英国FMFが開発した検査体系には、血液検査との組み合わせで染色体疾患の可能性を算出する検査「コンバインド・テスト」、赤ちゃんの全身を丁寧にみていく「妊娠初期超音波検査」、そして妊娠中期・後期の検査などさまざまなものがあります。染色体疾患の指標も、前述の「NT」だけではなくいくつかあり、その数が多くなるほど検査で算出される値の精度は高まります。

検査に適した時期は短く、次の3週間となります。

●妊娠初期超音波検査とコンバインド・テストの検査時期
妊娠11週~13週
 (施設によって少し違いがあります)

英国ではいきなり羊水検査を受ける人は少なく、まずは、このコンバインド・テストや妊娠初期超音波検査を受けるのが普通です。その結果「染色体疾患のある確率が高い」とされたら、そこで、確定診断ができる羊水検査(もしくは絨毛検査)を検討します。

なぜ、確率しかわからない超音波検査を受けるのでしょうか?それは、羊水や絨毛を採る検査は流産の危険性を伴うからです。


日本では、妊娠初期超音波検査もコンバインド・テストも実施病院が少ない

日本国内では、妊娠初期超音波検査、コンバインド・テストを実施している所はまだかなり少ないのが現状です。羊水検査や新型出生前診断をおこなっている病院でも、おこなっていないかもしれません。

しかし今後は、実施施設が増えていく可能性があります。やはり、流産の心配がない検査は妊婦さんに求められているからです。

日本で行われてきたクアトロ・テストは精度の低さが問題

日本でも、まず安全な検査で確率を調べてみるという方法は長く行われてきました。1990年代からもう20年間くらい行われてきた母体血の検査で、ダウン症、18トリソミー、開放性神経管奇形の3つの病気を調べる「クアトロ・テスト(母体血清マーカー検査)」がそれに当たります。しかし、この検査は精度が低いという大きな欠点があります。

クアトロ・テストは結果が「分数」で出されますが、295分の1より高い数値になるとスクリーニング陽性と判定します。しかし、例えば35歳でダウン症についてスクリーニング陽性とされた人のうち、本当に赤ちゃんにダウン症があった人の割合=陽性的中率は、検査会社のリーフレットによるとわずか2%です。


クアトロ・テストは安価で簡単に受けてしまいがちなので注意

また、クアトロ・テストは簡単に受けられてしまうところにも用心してください。

クアトロ・テストは妊婦健診でかかっている医師が実施していることも多く、その場合は簡単に受けられます。また、安価であるために、あまり深く考えずに受けてしまう人が目立ちます。妊娠初期超音波検査は7~8万円以上かかっている人が多いですが、クアトロ・テストは数万円以内です。

クアトロ・テストの結果がスクリーニング陰性であれば、陰性の的中率は高いし、大きな問題はないのです。しかし、スクリーニング陽性になれば、算出された分数は小さい値でもどうしても心配になり、たくさんの人が羊水検査コースに入ることになります。

どんなに簡単な検査でも、人工妊娠中絶に続く道の入り口かもしれない

超音波検査であれクアトロ・テストであれ同じことが言えるのですが、流産の心配がない侵襲性の低い出生前診断を受ける場合も、その結果次第では、羊水検査や、もしかしたら人工妊娠中絶につながる可能性が存在します。そんなことは私にはとてもできない、と感じている人が「でも、簡単な検査なら……」と受けてしまうことがありますが、あとで悔やむことがないようにしてください。

WHO(世界保健機関)が出した遺伝学的検査についてのガイドライン(※)には、侵襲性のない検査について説明する人は、妊婦さんに「これも人工妊娠中絶に至る道のファーストステップになり得る」と知らせなさい、とちゃんと書いてあります。

クアトロ・テストで予想外の結果をもらっても羊水検査に進まない人もいますが、その場合は、誕生までかなり大きな不安に苛まれ続ける可能性が大きいです。

クアトロ・テストを受ける場合は、以上のことをよく考えてください。クアトロテストの検査時期は、妊娠初期胎児超音波検査より少し先になります。

●母体血清マーカー検査(クアトロ・テスト)の検査時期
妊娠15~18週


ここまでにご紹介した超音波を使った検査やクアトロ・テストは確定診断にはなりません。また、受けられる人を制限する条件はありません。

次のページでは、染色体疾患の確定診断になる羊水検査、絨毛検査、そして確定診断に近い精度を持つ新型出生前診断についてご説明します。

(※)Review of Ethical Issues in Medical Genetics(WHO/HGN/ETH/00.4)
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