日本原産の薬味、サンショウ
ぴりりっとした辛味と、甘く爽やかな香りが魅力の実山椒
『日本食生活史』(吉川弘文館)では、青森県の縄文時代の遺跡からサンショウが入った土器が発見されており、刺激性のある辛いものが調味料として使用されていたと推定されると記載されています。
サンショウはミカン科サンショウ属の低木で、春先にでる若葉は、木の芽と呼ばれ、木の芽焼きや木の芽味噌、煮物椀などの吸い口に使われます。
サンショウは、雄株と雌株があります。雄株は、黄緑色の花が咲きますが実はなりません。京都などではよくこの花山椒を佃煮にします。実が採れるのは雌株だけで、今が旬の未熟な青い実山椒は「青山椒」とも呼ばれて佃煮などにされ、その後熟した実の皮は粉山椒にされます。ちなみに中国料理の花椒は、日本の山椒とは別種で、身の皮を用い、麻婆豆腐などの四川料理に使われます。
硬い枝もすりこぎや杖として利用されるなど、余すところなく活用されます。日本人にとって、なくてはならない植物といえるでしょう。
爽やかな辛味や香りが特長
サンショウの栄養価は、ビタミンやミネラルなど様々な栄養素が含まれています。ただ、食べられる量は多くありませんので、特筆するほどの栄養価が期待できるものではりありません。サンショウの風味をつくる上で特長的となるのは、主に香り成分であるシトロネロールやリモネン、ゲラニオール等、また辛味成分であるサンショオールやサンショウアミドです。
古くから漢方などでも生薬として用いられ、お正月の無病息災を祈る「屠蘇(とそ)」の材料の一つでもあります。食欲増進や健胃、体を温めることに有効と言い伝えられてきました。
現代の科学的にも、辛味成分のサンショオールは、抗菌作用や消化促進、大脳を刺激して内臓器官の働きを活発にする作用があり、ホルモンを刺激して基礎代謝を高めるとみられています。
またこうした辛味成分は、血行を促す効果や抗菌、収れん作用があると考えられ、ヘアケア化粧品などにも利用されています
マスキング効果で、臭み消しにも
以前に記事を書いていますが、辛味にも「シャープ」と表現されるワサビやカラシの鼻の粘膜を刺激するものと、「ホット」と表現しトウガラシのように熱く感じさせるものの二種類があります。- 味覚ではなく痛覚で感じる? 不思議な辛み(食と健康)
サンショウは「ホット」タイプの辛さで、ヒリヒリと持続するのが特徴。これは、サンショオールには局所麻酔成分があり、舌が麻痺した感じになるためです。料理に使うと素材の臭いを覆い隠すマスキング効果として、臭みを消します。ウナギなどに粉山椒が使われるように、動物性のものと相性のよいスパイスです。
ガイドはこの時期に実山椒を箱で買って、下処理後小分けして冷凍し、ちりめん山椒を作ったり、穴子やウナギ、肉料理などの風味をプラスするものとして多用します。
下処理は、まず小枝を外して塩を加えた湯でゆでこぼし、水で晒します。あまり長く晒しすぎると、独特の香りや辛味もへってしまいますので、時々チェックして好みの加減にしましょう。
『本朝食鑑』では、山椒について多食を慎むべきとあります。辛味も強いので、偏った取り方は禁物です。特定の成分についても、どの程度の量を摂れば効果があるのかなどはまだまだ明らかになっていない部分もあります。
こうした季節のスパイスを活用して、おいしい食事で元気に夏を乗り切っていきましょう。
■関連リンク
- 味覚ではなく痛覚で感じる? 不思議な辛み(食と健康)
- 参考/
- 日本食生活史(吉川弘文館)
- 和歌山県産品カタログ
- 『日本農業新聞「知って得 薬草百科」』
- 薬になる植物図鑑(柏書房)
- スパイスのサイエンス(文園社)
- 80のスパイス辞典
- 本朝食鑑( 平凡社)