鎌倉湖:散在ガ池~池をめぐるハイキング
称名寺を出たら、道を戻ってT字路を左手に曲がり、坂を登ります。散在ガ池森林公園の門を入っていきましょう。舗装路をまっすぐ進むと、池のほとりに出ることができます。また、途中で右に折れる細い道を下ると、水辺に立ち寄ってから、池に出ることもできます。谷戸底でやわらかな緑の葉を揺らす木々はハンノキ。まっすぐな幹に垂直に近い形で枝が出ます。かつては2本のハンノキの枝から枝に棒をかけて、刈った稲をかけて干す「はさかけ」に使ったそう。ハンノキは田んぼのあぜなどによく植えられ、「畔(=あぜ、ハンとも読む)の木」が語源となっているそう。ハンノキは湿地に生える木で、湿地環境が貴重になってきている今、鎌倉市内でも見られるところは数えるほどになっています。
小川の流れを楽しみながら木道を歩いていくと、切り立った断崖が現れます。
よく見ると、緑の葉がたくさん岩壁からぶら下がっているのが見えることでしょう。これはイワタバコ。6月中旬、薄紫色の星色の花を咲かせます。
双眼鏡など持っていけば、お花まで見えるかもしれませんね。イワタバコは、湿った岩壁などに生える草。葉がタバコの形に似ていることから、この名がつきました。丘陵の多い鎌倉では、その山際を切り落として土地利用されたところが多くあります。そうしたところは、丘陵に降った雨がしみ出た「しぼり水」で常に湿りがち。イワタバコが生えるのにちょうど適した環境です。切通などに奥ゆかしい紫色の花を咲かせるイワタバコは、まさに鎌倉らしい植物といえるでしょう。
階段を登っていくと、大きな池のほとりに出ます。ここが散在ガ池(鎌倉湖)。ベンチに座って、一休みしましょう。辺りにはサクラやモミジが植えられ、春にはお花見、秋には紅葉が楽しめるところ。
この一帯は、かつて人々が馬のまぐさを刈る入会地でした。江戸末期、称名寺のご住職がこの域を大船、岩瀬、今泉の3つの集落に無償で分与し、「散在の山」と呼ばれようになったといわれています。当時、大船千石といわれた広大な水田で水争いが絶えなかったことから、入会地に貯水池がつくられました。周囲に宅地化の波が押し寄せたころ、散在ガ池は公園として整備されました。観光用に、鎌倉にも湖があるということで「鎌倉湖」とも名づけられたようです。
深い緑の水をたたえた神秘的な池。周囲には、柵がめぐらされています。この池には、主である大ウナギを捕まえた少年が神の怒りにふれ、命を絶たれたという伝説があります。池の中心部が深くなっていて水の事故もあり、人々は子どもたちが池に近づかないよう、このお話をしたようです。
管理棟の脇から、のんびり小径を登っていきましょう。気持ちよく森林浴。ゆるやかな、変化に富んだ散策路です。
途中、イワタバコの花を間近に見ることができるかもしれません。また、この辺りに自生する、白いヤマアジサイに出会えることもあります。森を彩るお花たち、どうぞ取ったりせず大切に見守ってあげてくださいね。
右手に見えるオーバーハングした岩塊は、採石場跡。かつて、「かまくら石」を切り出して、石段や石塔などをつくる材料としていたといいます。この辺りの石は、硬くて質がよかったそう。昔は、穴の辺りにコウモリがたくさんいたようです。
道を登って、分岐点に到着。左の公園南口に出れば、歩道はすぐそこ。また、この分岐点からは右手に降りていけば、馬の背の小経を下って池のほとりに戻れるほか、パノラマ小径に行けば、六国見山などが木々の間から見える高台を経て、10分くらいでくるっと一周して戻ってこられます。
公園南口から舗装路に出て、少し右に歩くと緑道があります。ここを進めば、半僧坊下バス停に到着。バスで大船駅に戻りましょう。
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■散在ガ池森林公園
住所:鎌倉市今泉台7-930-1
電話番号:0467-47-1176、0467-45-2750(鎌倉市公園協会:鎌倉中央公園内)
アクセス:JR大船駅東口5番バス乗り場から鎌倉湖畔(循環)行きで「今泉不動」下車徒歩3分
ホームページ(鎌倉市公園協会):http://kamakura-park.com/go/sanzaigaike_park/sannza-top.html
アジサイやイワタバコに出会う、水辺をめぐるハイキング。爽やかな緑に包まれ歩けば、心もみずみずしく潤ってきそうです。