ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2015年5~6月の注目!ミュージカル(3ページ目)

早くも夏の日差しが眩いこの頃、大作が続々登場する一方では、規模は小さいながらも意欲的な新作、オリジナルミュージカルが上演。『あさはなび』『アイランド』『ブレイン・ストーム』『ジーザス・クライスト=スーパースター』『秘密の花園』『DOWNTOWN FOLLIES Vol.10』など見逃せない作品をご紹介します。追加作品、観劇レポートも随時更新しますので、ぜひ定期的にチェックしてください!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


戯作者銘々伝

5月24日~6月14日=紀伊国屋サザンシアター

『戯作者銘々伝』撮影:熊切大輔

『戯作者銘々伝』撮影:熊切大輔

【見どころ】
幕府の弾圧で一度は筆を折った戯作者・山東京伝が、純真な花火師に出会い、再び“笑い”に命をかける…。実在の戯作者をモチーフに、志を貫く人々の姿を描いた井上ひさしさんの『戯作者銘々伝』等の小説を素材として、東憲司さんが書きあげたのが今回の新作戯曲です。

山東京伝役には北村有起哉さん。ほか新妻聖子さん(『ファースト・デート』)、山路和弘さん(『三文オペラ』)ら、ミュージカル界でも活躍中の方々が起用され、音楽は宮川彬良さんが担当。新妻さんはオリジナル曲も歌う予定とのことで、これまで洋楽を歌い上げることの多かった新妻さんが歌う「和」フレーバーの音楽にも、期待が集まります。

【取材会レポート】
『戯作者銘々伝』出演者の皆さんと作・演出の東憲司さん(前列左)、プロデューサーの井上麻矢さん(前列右)(C)Marino Matsushima

『戯作者銘々伝』出演者の皆さんと作・演出の東憲司さん(前列左)、プロデューサーの井上麻矢さん(前列右)(C)Marino Matsushima

この日はこまつ座のプロデューサー・井上麻矢さん、作・演出の東憲司さんの会見からスタート。戦後70年ということもあり、今年、こまつ座は「言葉」「憲法」「庶民」をキーワードとして井上ひさし作品から演目を選んでいるそうですが、その中でも井上の小説をもとに別の作家が脚本を書いている点で、異色の作。東さんは山形にある井上の書庫、遅筆堂に7週間通い詰め、その蔵書数に圧倒されながらも井上の精神を伝えようと懸命に書いたのだそう。また今回、宮川彬良さんが音楽を担当することになったのは、生前井上が「“いい乾き”のある音楽」と好んでいたことから。皆で意見を出し合う稽古は順調に進み、東さん自身仕上がりを楽しみにしているそうです。
『戯作者銘々伝』稽古より。(C)Marino Matsushima

『戯作者銘々伝』稽古より。(C)Marino Matsushima

スタジオに移動すると、「男性たちの生き様を描く作品の中で、女性の存在感も示したい」と、唯一の女性キャストとして3役を演じる新妻聖子さんら、出演者がそれぞれに挨拶。続く稽古では冒頭のシーンが披露され、“あの世の住人”となった登場人物たちの導入ソングが歌われます。初めて聴いた時に東さんが「江戸から遠く離れていて意表をつく」と感じたという宮川さんの音楽はなるほど、ドライなユーモアを漂わせた“洋風”メロディ。キャストは日本語の歌詞をぴったりと乗せ、あれやこれやと動きを取り入れつつ歌っていて、聴いている側にもわくわく感が伝わってきます。この後、どんなドラマが展開していくのか、開幕が“かなり気になる”稽古でした。
『戯作者銘々伝』撮影:谷古宇正彦

『戯作者銘々伝』撮影:谷古宇正彦

【宮川彬良さんアフタートーク・レポート】
本作の音楽を担当した宮川彬良さんは、トークの面白さに定評のある作曲家。5月28日公演後のトークショーでも、滑らかな語りは絶好調。本作の核心を絡めたお話を展開されていましたので、今回は「観劇レポート」の代わりに当日のレポートをお送りします!

まずはこの日初めてご覧になったらしい、完成形の舞台への感想から。「終盤に井上ひさし原作の作品らしさを感じました。大きな花火を作ったというだけで(お上に)花火師が追い詰められたとき、彼を応援していた文学者の山東京伝は“(まあ、世の中って)こんなものかな”と彼と一線を引いてしまう。机の前の(建前だけの)人なんですよね。僕も(芸術家として)いつも大切なことを考えているつもりだけど、いかんせん机の前で仕事をしているので、本当に人を助けられているかと時々自問自答してしまう。そういう思いがあらわになってきて、お客様たちもそれに同調して大きなうねりが出来ていた。その一部になれて、今日は光栄な気持ちでした」と宮川さんは語ります。
『戯作者銘々伝』撮影:谷古宇正彦

『戯作者銘々伝』撮影:谷古宇正彦

続いて音楽とはクラシックであれロックであれ、本質的に「調和」「平和」を目指した文化だという話、自身が中学生の時に舞台音楽家になると「天啓」を受けたエピソード、高校生の時に持った3つの願いが20年がかりで叶ったというお話の後、再び『戯作者銘々伝』の話に回帰。

「僕は40代のころ10年間やっていた『クインテット』という音楽番組で、子供の歌ばかりでなく、世の中を鋭利な気持ちで切るような風刺の歌も作っていたこともあって、井上ひさしさんと同じ、熱いマグマを持っていると思うんです。だから『MUSASHI』の時もそうだったけれど、(作曲のために)井上戯曲を読むと音楽がどんどん湧いてきちゃうんです。今回は“式亭三馬”にひっかけてサンバだとかね。“これでええのか江戸時代~”って、歌う新妻聖子さんがまた何とも色っぽいんですよね。ああいうふうに歌われちゃったらもう…と思いますね(笑)」と、創作過程はノリに乗っていたご様子です。
『戯作者銘々伝』撮影:谷古宇正彦

『戯作者銘々伝』撮影:谷古宇正彦

最後にトークショーのタイトルにもある「音楽は命だ」について、「先日、世田谷の中学で講演をしたときに、最後の質疑応答で中3の少年に“先生、音楽ってなんすか?“と聞かれて、“すべての音楽は有機的に作られている、けれど目に見えないからこそありとあらゆる芸術家が音楽に憧れる。総合すると、音楽は命だってことにならないかい?”と答えたら、300人の生徒から「おお」という地響きのような声が返ってきて、大人たち、特に政治の世界がでたらめな今、子供たちのほうがほんとのことを知りたがってる。本当のことを堂々と言っていかなければいけないんだと気づかされた」と語り、聴衆が深く頷いたところで終了時刻に。ずっしり響くメッセージを含みながらも、最後には流れてくる例のサンバに合わせ、茶目っ気たっぷりに踊りながら立ち上がった宮川さん。サービス精神たっぷりのトークに、観客たちも大満足のていで劇場を後にしていました。

*次頁で『DOWNTOWN FOLLIES Vol.10』以降の作品をご紹介します!

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