アイランド

5月7~12日=六行会ホール

『アイランド』

『アイランド』

【見どころ】

「ストーリーテラー」と呼ばれる男女のアンサンブルが歌い語るのは、身分違いの恋に落ちるティ・モーンの物語。「人魚姫」をモチーフに、カリブ海の島で人間と精霊たちが繰り広げる底抜けに明るく切ないミュージカルは、90年にブロードウェイで初演、トニー賞8部門にノミネートされました。ミュージカル座による今回の公演では昨年に引き続き、片山陽加さんが主演。相手役をダブルキャストで上野聖太さん、小林遼介さんが演じるほか、小野田龍之介さん、末次美沙緒さんら実力派が脇を固めます。トロピカルムードいっぱいの作品に身をゆだねれば、初夏を先取りで体感できそう!
『アイランド』写真提供:ミュージカル座

『アイランド』写真提供:ミュージカル座

【観劇ミニ・レポート】

トロピカルなヴィジュアルと音楽(5人編成の生バンド。特にクラリネットのまろやかな音色が効果的)に彩られた舞台。人々は一人の少女に向かい、ただ一つの恋にすべてを捧げた娘、ティ・モーンの物語を語り始めます。物語のベースとなっているのは「人魚姫」ではありますが、人々を見守る神々がギリシャ神話さながらに「愛」や「死」を司り、競い合っていたり、人間と近しい距離にあり、時には取引をする。また、シンプルなストーリーの中に人間の卑小さと美しさをまざまざと浮かび上がらせているといった点において、童話というより神話的なダイナミズムを持つ作品です。
『アイランド』写真提供:ミュージカル座

『アイランド』写真提供:ミュージカル座

“けなげ”という語がぴったりのティ・モーン役・片山陽加さんはじめ、キャストは土の感触を全身で表現し、ファンタスティックな神話物語にリアリティをプラス。神々役もそれぞれに個性豊かですが、とりわけ得意のダンスを封印し、パワフルかつニュアンスのある歌声でボーカリストとしての魅力も再認識させる「死」の神役・小野田龍之介さんが出色です。ティ・モーンの養母役でふくよかなアルト・ヴォイスを披露する末次美沙緒さん、力強く大らかな歌唱で大地の神役を表現する鈴木結加里さんも好演。
『アイランド』写真提供:ミュージカル座

『アイランド』写真提供:ミュージカル座

物語は後半、不条理なほど残酷な方向へと進みますが、最後の最後に希望に満ちたエピローグへと転じると、場内は一気に安堵に包まれます。躍動的な振付(荻野恵理さん)で人々がひとしきり祝祭的な高揚感を歌い踊ると、はじめに物語を聞かされていた少女(この日のキャストは前廣衿花さん、安定した歌声)が今度は自ら、物語の冒頭を語り始める。人類が口承によって世代から世代へと物語を伝え、イマジネーションを蓄えてきたことを象徴するかのような幕切れは美しく、中本吉成さん演出の本作は何とも“愛すべき”公演に仕上がっています。


ブレイン・ストーム

5月21~24日=六行会ホール

『ブレイン・ストーム』

『ブレイン・ストーム』

【見どころ】

“作品が書けなくなった”落ち目のハードボイルド作家。精神科に通いながら何とか新作を書こうともがく彼の目の前に、幻想の女性が現れる…。竹本敏彰さんが脚本と作詞を、玉麻尚一さんが作曲を担当した本作が11年の公演以来、待望の再演。今回は苦悩する主人公を坂元健児さん、精神科医を初風緑さん、主人公の妻を瀬戸早妃さんが演じます。“男臭い”けれどコミカルでもある物語世界を、新キャストがどう表現するか。新たに初風緑さんが担当する振付にも注目、です。
『ブレイン・ストーム』写真提供:ミュージカル座

『ブレイン・ストーム』写真提供:ミュージカル座

【観劇ミニ・レポート】

主人公が「書けない」背景にあるのは「鬱」という病。デリケートな題材ゆえ、例えば「愛の力で(鬱から)救われる」といった表現には、観る人によって様々なリアクションがあるかと思われます。(筆者は愛の力ではこの病の患者を救うことができなかった例も知っていますが、そのような経験をされたご家族にとって、この表現はつらいものではと思われます)。
『ブレイン・ストーム』写真提供:ミュージカル座

『ブレイン・ストーム』写真提供:ミュージカル座

しかし長い間トンネルの中にいた主人公が、最後に別の誰かを救おうと自らの意志で立ち上がり、一歩踏み出してゆく姿には、誰もが共感を抱き、カタルシスを感じずにはいられないでしょう。それまでは内に焦燥を溜めこんでいたのが、明確な生きる目的を持ってソロを歌う坂元健児さんの姿、歌声の力強いこと。『ライオンキング』シンバや『レ・ミゼラブル』アンジョルラスなど、ヒーロー役を数多く演じてきた彼ならではの説得力が役に与えられています。
『ブレイン・ストーム』写真提供:ミュージカル座

『ブレイン・ストーム』写真提供:ミュージカル座

知的で颯爽とした初風緑さんも医師役がよく似合い、主人公のマネジャー役SINGOさんも彼への思いを切々と歌い上げるソロナンバーでパワフルな歌声を聴かせるなど、周囲も手堅い演技。或る一個人の物語ではありますが、その周りには常に誰かがいること、そして意図的、無意識を問わず人間は互いに支え合って生きているということが、次第に立ち現われてゆく舞台です。

*次頁で『戯作者銘々伝』以降の作品をご紹介します!