『シャーロック ホームズ2 ~ブラッディ・ゲーム~』観劇レポート
激情を知的な表現で包み込んだ、大人のエンタテインメント
『シャーロックホームズ2 ブラッディ・ゲーム~』撮影:難波亮
方眼紙状の罫が映し出された背景。シャーロックたちが謎解きを始めると、そこには鍵となる数字やアルファベット、線が浮かびあがり、台詞や歌詞に合わせてゆらめき、流れてゆきます。探偵たちの脳内を象徴的に表現したかのようなこの背景以外は椅子とテーブルといった最小限の小道具しか置かず、「切り裂きジャック事件」の再現もアンサンブルの女性がふわっと倒れるといった最小限の表現にとどめており、今回の日本版はパート1よりもいっそう観客のイマジネーションに訴える、“知的な大人のエンタテインメント”の趣。
『シャーロックホームズ2 ブラッディ・ゲーム~』撮影:難波亮
複雑に織り上げられ、次にどの音にゆくか予想がしにくい点で“難解”と言われるチェ・ジョンユンさんの音楽も、例えばシャーロックとクライブが一つの謎を解決してゆくナンバーでは最後に音が開放的な展開を見せ、彼らとともに謎解きをしていた観客が知的な達成感を得られるようになっています。
『シャーロックホームズ2 ブラッディ・ゲーム~』撮影:難波亮
そんなインテリジェントな劇世界を観客のすぐ傍にまで引き寄せているのが、出演者たちの血の通った演技。橋本さとしさん演じるシャーロック・ホームズは前作よりさらに「謎解きオタク」的なエキセントリックさを増しつつ、物語をエネルギッシュにひっぱり、一路真輝さん演じる女性ワトソンはそんな彼を硬軟自在に好サポート。1幕で「切り裂きジャック事件」の情景を語るナンバー、2幕で犯人と対決するナンバーともに、女性に割り当てられた曲とは思えないほどの激情が求められるナンバーですが、一音、一語にニュアンスを含ませ、聴き手を引き込む一路さんの歌唱はさすがです。
『シャーロックホームズ2 ブラッディ・ゲーム~』撮影:難波亮
事件のキーパーソンである盲目の女性マリアを演じる秋元才加さんは、まっすぐに歌う姿がひたむきで好感を誘い、彼女を守ろうとするエドガー役・良知真次さん(ダブルキャスト)も歌唱において、音を長く伸ばすフレーズの処理が丁寧で、マリアへの溢れる思いが伝わってきます。パート1より人数を増したアンサンブルも、流れるように展開する物語を街ゆく人々、事件の犠牲者、盛り場の客など目まぐるしく役を変え、生き生きと彩っています。
『シャーロックホームズ2 ブラッディ・ゲーム~』撮影:難波亮
そして今回、クライブ警部という重要な役どころで別所哲也さんが参加していることで、舞台にはいっそうの厚みがプラス。別所さんと言えば『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャンの歌唱が今も耳に残る舞台ファンは多いと思われますが、「神とは、人間とは、正義とは何か」を問う『レ・ミゼラブル』を経験した別所さんが演じることで、このクライブ役、そして作品自体にも同様のダイナミズムが与えられています。クライブとシャーロックのデュエットでは、経験を積んだスターならではの密度の濃い表現が激突し、迫力満点。
『シャーロックホームズ2 ブラッディ・ゲーム~』撮影:難波亮
謎解きものという作品の性質上、核心部分には言及できませんが、個性的でスタイリッシュ、できれば知的なミュージカルを観てみたいと思う方なら、この作品はまさにお勧め。韓国では第一弾、第二弾の圧倒的成功を受け、早くも第三弾が準備中だそうで、来年あたり、さらなる橋本シャーロック&一路ワトソンの冒険を観ることができそうです。