次回作『南太平洋』では渋いロマンスグレーに挑戦
『ユーリンタウン』(流山児祥・演出)
「どれも手ごわいですけよ。もちろん『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『ナイン』も手ごわかったけれど、全く異なるジャンル感で言うと『ユーリンタウン』、これもブロードウェイで観た後に、宮本亜門さん版(04年)と流山児祥さん版(11年)と両方、違う役で出させていただきましたが、物語的にも音楽的にも面白い作品で、俳優として忘れられない作品です。でも正直、その時その時に向き合っている作品が一番手ごわい。今は『シャーロック ホームズ2』が難しくて、どうしたものかなと思っているところです(笑)」
――『シャーロック~』の後には、『南太平洋』に出演されますが、こちらは渋いお役ですね。自分は君には年をとりすぎているからと、若い女性との恋愛から身を引くという…。
「フランスから南国の島へと、自分を一度捨てて人生を再構築するためにやってきたような男ですね。人生経験があり、すごい情報量を持っているけれど、それを舞台で説明することはあまりないんです。ロマンスグレーに近く、白髪を入れようかな?と思っていますよ。人間は年をとると、月日を重ねてたおやかになるというか、しなやかになる部分と、いっぽうで頑固になって譲れない部分も出てくるものかなと思いますが、それを南太平洋という大自然のもと、壮大な、ゆるぎない音楽で描いたミュージカルです。ピューリッツァ賞も受賞したほどの、戦争とか人種差別といった社会性も盛り込まれているけれど、ミュージカルという一つの素晴らしいミュージックボックスにぽんと入った時に、よりきらきらと見えてくる結晶みたいなものがあるのかなと思いますね」
――『魅惑の宵』『バリ・ハイ』など、名曲もたくさん出てきますね。
「英語で何度か歌ったことがありますが、『ユーリンタウン』とか『シャーロック~』が重装備した音楽だとすると、『南太平洋』とか『サウンド・オブ・ミュージック』はオーケストレーションを含め、なんてシンプルな音楽なのだろうと感じますね。変にビブラートをきかせたら、きっと違う音楽になってしまう。小刻みにリズムをとるのではなくて、4小節でひとくくりにとるイメージでしょうか。今回、音楽的にも新たなチャレンジができそうで、楽しみです。
ひとくちにミュージカルと言いますが、その中にもいろんなジャンルがあって、例えば空を飛ぶ鳥と海の魚と陸上を走る動物って、優劣がつけられないですよね。それくらい違うものをやらせていただけているのが嬉しいし、とてもラッキーだと思います」
『南太平洋』2015年7月9日~8月13日全国ツアー
「これも『レ・ミゼラブル』のジョン・ケアードに言われたことなんですが、“君たちはオーディションを通った時点で、その役として生きているという自信を持って、舞台の上で生きてほしい”と言われてハッとしたんです。舞台だけでなく映画も人生そのものも、“キャスティングがすべて”なんですよね。よく、会社についても“人事がすべてだ”というじゃないですか。ある人がそこにいることにも、ある人とある人が出会う、あるいはある距離感をもって存在することにも、すべて意味がある。キャスティングという言葉に凝縮された哲学に打たれたというか、人と人の出会いを創る、ここにはこの人が必要だ、という状況を創ることに魅力を覚えて(キャスティング)会社をやっています」
――国際短編映画祭の主宰を含め、非常に多彩な活動をされていますが、それはミュージカルを演じる上ではメリットが大きいですか??
「大きいですね。匠のように一つのことをやるのも素晴らしいけれど、僕は、何かを極めるためには、“その分野ではないこと”をしないと何か見えてこないんじゃないか、とずっと思っているんです。大事なことは、お客様と一緒に自分が心が動くことが出来るかどうか。そのためには、あまり自分に肩書を付けずにやりたいですね。いろいろな仕事はしていますが、真ん中で起きてることは一緒で、手法がパソコンで打つ事務職であったり、体を使うことであったり、ラジオだったりするだけです」
*次頁では様々な仕事をマルチにこなす別所さんならではの、今後のビジョンをうかがいます!