介護

リハビリ成果を高める3つのポイント:「生活技能」編

身体の機能や生活技能を高めるリハビリにより、介護または通院の生活から「卒業」する高齢者も見られるようになっています。要介護高齢者でも、正しい知識のもと適切なリハビリを継続していけば「自立生活」も夢ではありません。今までリハビリの成果をあまり感じられずにいた場合にも、ちょっとしたアイディアで成果をぐんと高めることができます。

執筆者:中山 奈保子

介護保険制度が施行される以前…

リハビリ病院

合併症や意識障害がなければ、発症からわずか1週間程度でリハビリが開始されることも。

リハビリ専門病院や施設が少なかった時代。例えば高齢者の場合、脳卒中後に半身不随となっても自宅や老人施設で長期間「寝たきり生活」を強いられるケースも珍しくありませんでした。

現在では「病気や障害があっても可能な限り自立した生活を送る」という考え方が浸透し、殆どの病院や施設で発症して間もなくリハビリが開始されるようになっています。また、全国各地に訪問リハビリサービスを提供する事業所や通所型リハビリ施設が展開されていますので、自宅復帰した要介護高齢者が「介護を卒業」することも夢ではなくなっています。


リハビリの成果を高めるコツ3つ

リハビリの内容も年々多様化しています。医師の指示を受けて行われる理学療法・作業療法・言語聴覚療法以外にも、民間企業が運営するフィットネス施設、自立生活を促す福祉用具などが普及し自由に選択できるようになってきました。ただし、どんなに魅力的なプログラムでも、自分に合ったリハビリを行わなければ成果を得ることはできません。また、懸命にトレーニングを重ねて筋力や体力が向上しても、実際の生活で介護に依存してばかりであれば、せっかくの努力も台無しです。

日常生活の自立を高め、できるだけ介護に頼らない暮らしを実現(習慣化)するリハビリ。その成果を高めるためのポイントとして「生活技能」「意欲向上」「家族サポート」の3つが挙げられます。今回は「生活技能」についてお伝えします。


筋力や歩行機能と「生活技能」の違いは?

生活技能とは、日常の動作を「上手に、安全に、できるだけ一人で、無理のない方法で効率よく行う」技能(スキル)を指します。箸を使ってご飯だけではなく骨のある魚も上手に食べることはできるか。冷蔵庫の扉を空ける際、開いた扉が顔面に当たって転倒しないよう立ち位置を定められるか。細い歩道で向かってくる自転車を避けながら歩くことはできるか……。

自立生活を目指すリハビリでは、筋力、手指の巧緻性、歩行などの「身体機能(パワー)」だけではなく、それらを生活に活かすための「技」もセットで獲得することが必要不可欠です。以下に生活技能を磨く3つのコツを紹介します。


その1:身近な日課を目標に掲げる

病気やケガから回復した直後は「(リハビリの)目標は何ですか?」と聞かれても上手く言葉にできずにいる人が殆どです。「こんな身体で何ができる」「もう元の暮らしには戻れない」と悲観的になったり、逆に「自分ならすぐに回復できる」「来月には仕事に復帰できる」と威丈高になるなど、こういった反応はむしろ健常といえます。はじめから目標を具体的に列挙し過ぎると燃え尽き症候群に陥りやすいですし、回復途中の身体を傷め慢性疼痛を引き起こす恐れもあります。

作業療法

趣味を楽しめるようになることも、リハビリを進める上で大切な目標となります。

リハビリの目標は、身近な日課のなかから最も実現に近い目標を具体的に掲げることがポイントです。「筋力アップ」や「歩行スピードアップ」ではなく「はじめの5口だけは自分で食事を食べれるようになる」「着替えを一人でできるようになる」「杖なしで部屋の中を歩けるようになる」というようなものが良いです。また、いつまで達成するかを明確にしておくことも大切です。1か月後、3か月後、半年後、1年後。家族や専門職の力を借りて十分に相談し計画を立てていくと良いでしょう。

すぐに目標を見出せない場合でも全く諦める必要はありません。実際にリハビリをしている人に聞いてみますと、似たような境遇でリハビリをしている人のなかに入って同じ訓練をしてみたり、話しを聞いてみることで自分自身の新たな目標を見出すことに繋がったという声がよく聞かれます。


その2:慣れ親しんだ環境で行う実地訓練による「汎化」

身体機能訓練によって基礎体力が身に付いてきたら、それと同時に「実地訓練」を行うことが大切です。「病院でできても、自宅では全く歩けなかった」等という声はよく聞かれますが、訓練で行う動作はあくまでも「模倣動作」に過ぎません。目標を定めたら、その動作を実際に必要とする場面、または限りなくそれに近い環境で繰り返し練習します。そうして、ひとつの環境だけではなく別の環境でもできるようになることを「汎化」と呼んでいます。

脳化学の研究では、より慣れ親しんだ環境ほど「汎化」が行われやすいと言われています。例えば、入院中に自宅外泊し、使い慣れた台所や大好きなリビングで練習を行えば、過去の記憶や感覚がよみがえりスムーズな動作が導かれるかもしれないのです。


その3:「リハビリ日記」で出来事を言語化(フィードバック)

日々のリハビリ内容や目標の達成度について誰かに話したり、文章として残すことは、リハビリの成果を高める上で大変重要です。日々の経験を言葉に起こすと、自分がどのようにして目標を達成しようとしているか、今何が問題になっているかについて思考が整理され、心身の「学習」を高めることができます。日々の筋力訓練の回数や失敗談を「リハビリ日記」として何冊ものノートに書き続けている人を多く見かけますし、ブログで発信、患者会で共有等といった手段もお勧めです。

次回はリハビリの成果を高める「意欲」についてお伝えします。


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