日本復帰後最速記録と、9年ぶりのタイムリー
黒田の2勝目の裏には、新井との隠されたドラマが。
黒田はこの試合で、2つのエポックがあった。1つは、最速152キロを記録したことだ。過去2度の登板で148キロが最速だったが、1対1の同点で迎えた四回二死三塁で、上本に投じた球が日本復帰後最速を叩き出した。
「大事な場面では、いつ腕が飛んでもいいと思っていますから。目一杯、腕を振りました」
ここという時のギアチェンジは、さすがメジャー帰りだが、40歳での152キロこそ普段からの弛まぬ努力の賜物である。
もうひとつは“打者・黒田”だ。六回、2点を勝ち越して、なお無死満塁のチャンス。阪神の先発・メッセンジャーの外角変化球に体をぶつけるようにバットを出した。打球は一塁・ゴメスの横を抜ける右前タイムリー。
黒田の日本球界での打点は、2006年5月20日の日本ハム戦(広島)でスクイズを決めて以来、9年ぶり。適時打は、2005年5月3日の阪神戦(甲子園)で福原から打って以来の10年ぶりだ。「1点でも多く取れるように」とまさに勝利への執念がこのタイムリーを生んだ。
黒田の力投に、気持ちで応えた盟友・新井
この勝利の裏に別のドラマも隠されていた。実は黒田以上に大歓声を受けた男がいた。二回、(6番・一塁)で打席に立った新井だった。昨年までの7年間、タイガースのユニホームを着ていた男。ゴメスが4番に座ることで出番をなくし、年俸を半分に落とされ、事実上の戦力外通告を突きつけられ、古巣に拾われた。そういう経緯をわかっているタイガーズファンは、ブーイングではなく拍手で迎え、阪神時代のままの新井の応援ボードを掲げた。
1対1の同点で迎えた六回、無死一、三塁。メッセンジャーの内角ストレートを力負けせず振り抜いて、左翼超えに勝ち越しのタイムリー二塁打を放った。「クロさんが粘っていたので、何とかしたい、走者を返したいと思っていた。インハイのストレートです。前の打席からタイミングは取れていたんです」。気持ちで打ったといえるだろう。
2007年オフ、黒田はメジャーへ、新井は阪神へいずれもFAでチームを離れた。理由は違っていても、広島愛に溢れる2人にとって苦渋の決断であったことは間違いない。
新井は黒田の2歳年下だが、2人は仲が良く、オフに黒田が帰国する度にゴルフをし、酒を酌み交わし、旧交を温めてきた。8年ぶりの広島での再会はまさに運命。新井は黒田の広島入団が決まると国際電話をかけ、「また一緒に野球ができますね」と伝えた。この時から黒田への援護を強く、強く誓ったのだ。
40歳の黒田と38歳の新井。2人が演じる最終章のドラマを我々は見逃してはいけない。