アート・美術展/アートの楽しみ方入門

コムズカシイ?美術の「コンセプト」を理解するコツ(2ページ目)

普通の生活には必要なくて、現代美術に欠かせないものと言えば「コンセプト」。展覧会のアーティストトークや学芸員さんの説明でも「この作品のコンセプトは」と聞いたことがあるでしょう。でもそれ一体何?今回は「コンセプト」についてご紹介しましょう。

藤田 千彩

執筆者:藤田 千彩

アートガイド

コムズカシイ現代美術の展覧会を「コンセプチュアルな展覧会」と言ったりします。感覚的にコムズカシイと思っても、具体的になにがどうしてコムズカシくさせるのでしょうか。続いてお話を伺うのは、アーティストのmamoruさん。彼はサウンドアーティストという肩書きですが、歌ったりピアノを弾くというのではありません。え?やっぱり現代美術ってコムズカシイ?


アーティストにとっては「制作する動機そのもの」

まずはmamoruさんの作品を鑑賞してみましょう。

うす暗い部屋の壁には、文章や地図が貼られています。
うす暗い部屋の壁には、文章や地図が貼られています。

《THE WAY I HEAR, B.S.ライマン 第四章 独想のためのスコア、19 June, 1874》  2013-14 (C)mamoru / Tokyo Wonder Site 2014


壁に取り付けられた棚板の上に楽譜とコンパスが置かれています。

壁に取り付けられた棚板の上に楽譜とコンパスが置かれています。

《THE WAY I HEAR, B.S.ライマン 第四章 独想のためのスコア、19 June, 1874》  2013-14 (C)mamoru / Tokyo Wonder Site 2014


 
中央の譜面台に楽譜とコンパスを置き、楽譜をめくってみましょう。

その楽譜をめくってみましょう。

《THE WAY I HEAR, B.S.ライマン 第四章 独想のためのスコア、19 June, 1874》  2013-14 (C)mamoru / Tokyo Wonder Site 2014


 

書かれている文章を読んだり、その文章に出てくる通りにコンパスを動かしたり、置かれた石を触ったりすることがこの作品の鑑賞方法。スピーカーはないのに、川のせせらぎなどの音が聞こえてくるようで、まるで旅に出掛けているような感覚になります。

mamoruさんはこう語ります。

「私の作品制作においてコンセプトをつくる、という発想をもったことがありません。なぜならコンセプトは『制作の動機そのもの』で、つくるものではなく、既にあるものだから」。

じゃぁ、mamoruさんは普段からコムズカシイことを考えているのでしょうか?

「もともと自分自身の中にあるアイデア、音、イメージ、発想や興味、気にかけていること、問題意識、あったりなかったりする根拠、そういったことだけでなく、時代的なこと、社会的なこと、日常的なこと、自分が生きて接する世界のいろいろな状況があります。こうしたことに対して観察したり考えている状態を、自分なりに理解しよう、と繰り返し疑問と質問しつづけることが私の『作品をつくる』行為そのもの。そのときの核になっているものが『コンセプト』だと思います」。

やっぱりコムズカシイんですね!単純に「キレイ」とか「美しい」とかで作品をつくったらいいのに!

mamoru

mamoru


 
「印象派の絵を描いた画家は、単に淡い色で風景をきれいに描いたわけではありません。印象派の当時は、写真が生まれた時代。絵画で見たままをリアルに描く意味がなくなりました。そこで表面上の視覚的魅力ではなくて、画家たちがいろいろ考えた結果、『光をとらえる』というコンセプトを生んだのです。アートだけでなく、近代以降他のジャンルでも、進化論的に、世界観が新しいもの=良い、進歩する=価値がある、という判断だけでは成立しないし、見た目だけで理解できるものはありません。その背景に、科学や哲学に通じるような知の探求と創造があり、それをアートでは『コンセプト』と呼ぶのです」。

mamoruさんの言うように、「コンセプト」は目に見えたり、分かりやすいものではありません。作品を見たとき、キレイとか美しいと思っても、実は他の意味や目的があるのでは? と疑ってください。そのとき感じること=「コンセプト」。つかむまでコツと時間が掛かりますが、分かるようになったら現代美術をとても楽しめますよ!

=mamoru 展覧会情報=

「他人の時間|Time of others」
会場/東京都現代美術館
会期/2015年4月11日(土) ~6月28日(日)
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