企業経営のノウハウ

曖昧な職場言葉、「情報共有」という言葉にご用心!(2ページ目)

今も昔も企業では、情報共有が必要とされています。同じ企業に属しているのであれば、「情報を共有しておくことは当然である」と言われます。しかし、この情報という言葉、かなりざっくりとしていませんか? 情報には深さがあります。事実やデータ、仕事に纏わるナレッジ、そして暗黙知の世界のスキルやノウハウ。今回は情報を三段階に分け、その共有の仕方を考えてみましょう。

豊田 健一

執筆者:豊田 健一

総務人事・社内コミュニケーションガイド

第二段階:業務にまつわるナレッジの共有

第一段階の事実やデータは、企業内のメンバーであれば、誰でもが理解できるものです。理解はできますが、それを理解することで自らの業務が効率化されたり、進化する類のものではありません。しかし、この第二段階のナレッジは、業務に直結する情報となります。

ですから、誰でもが必要とする情報ではありません。
ナレッジを共有している様子

ナレッジは誰が保有しているか明白ではない。

第一段階の情報よりはるかに専門的な情報となります。暗黙知と言われるものに近く、目に見える形でどこかに格納されている情報ではありません。つまり、どこに存在するかが明白ではない情報となります。

例えば、ある業界を営業した経験から学んだ知識、特定の部署が必要としている情報カテゴリー、自社が属する業界の動向を推測する視点など、各自が業務の体験から学んだオリジナルの情報です。

この段階の情報は、誰が持っているのかを自己申告してもらわないことには、どこに存在するかが全く分かりません。また、各自のオリジナルの、そして各自の財産でもありますから、簡単には提供してくれないこともあります。

社内コミユニケーション・メディアでできることがあるとしたら、人物事典を作り、そこに、強い業界、特異な業界や業務、過去の業務経験を記載してもらい、あるナレッジを必要としている人がそこをめがけて情報を持っているかどうか訪ねていける仕組みの構築でしょう。

専門性が高いナレッジがゆえに、また、経験値がゆえに整理整頓されていないケースもありますから、このようなナレッジと明記できるものでもありません。この範囲の経験がある、というところから探り当てる、そのような情報共有となるでしょう。

また、経験値から導きだされたものですので、その経験というバックグラウンドを外して、エッセンスだけ取り出しても、意味が通じない場合もあります。ですから、形式知化、誰でもが理解できる文章の形にするには、しっかりとした取材のもと、ある程度、文章作成に手慣れた人が取りまとめないと使えない物になってしまうかもしれません。

第二段階のナレッジは、誰が持っていそうか、その心当たりを明記して、必要な人が直接聞きに行ける情報を提供してあげることがポイントとなります。

第三段階:業務にまつわるノウハウの共有

第三段階の情報であるノウハウやスキル。これは、保有している本人も、意識してその情報を持っている場合でないこともあります。無意識のうちにそのノウハウを活用している場合もあるということです。ですから、誰が持っているという情報を集約することは難しい類の情報となります。

第二段階のナレッジと同様に、あるいはそれ以上に、実際の業務経験から習得することとなるものなので、先の人物事典と同様に過去、現在の業務経験を記してもらい、そこから辿っていくことになる情報です。

社内報的には、業務経験についての取材をすることにより、本人も気づかないノウハウを探り当てるということになるかもしれません。また、このノウハウこそ、当事者の差別化の源泉ですから、意識している人ほど、おいそれとは表に出してくれないでしょう。

誰が持っているかという視点ではなく、逆に、必要としている人からノウハウの供出を呼びかけることのほうが現実的かもしれません。「これこれこのようなことで業務が行き詰っています。誰か助けてくれませんか」。そのような呼びかけです。

ただ前提として、そのような呼びかけに協力してくれる社風がないと、その呼びかけには応じてもらえないかもしれません。ノウハウを提供した人には、人事的に評価されるとか、表彰されるとか、提供者へのメリットがないと難しいかもしれません。

最も業務に役に立つこのノウハウ。共有するには、社風まで変えていかないと実現できない、かなり難易度の高い情報です。

「情報共有」と、簡単に表現できても、その中身を深く掘り下げていくと、必要な情報ほど、簡単には共有されないことが理解できると思います。

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