怖ろしいのにどこか憎めない、それが鬼婆?!
鬼婆(おにばば)は、日本の昔話に欠くことのできないキャラクターです。いつも怖ろしい顔で人間を食べようとしますが、どのお話でもなぜか失敗ばかり。なんとなく憎み切れない化け物なのであります。今回ご紹介する絵本『さんまいのおふだ』にも鬼婆が登場しますが、今度こそは首尾よく目的を達成することができるのでしょうか? それとも……。ゴンゴン逃げろ!おばばが来るぞ!
山のお寺に和尚さんと一緒に住んでいる小僧さん。天気の良い日に山へ花を切りに出かけます。夢中になって花を探すうちに、あたりは暗くなり道に迷ってしまいます。一夜の宿を探し求めて見つけた家の灯り。もうそれだけで鬼婆の登場を予測できますね。「こんや ひとばん とめてもらえるかの」「おう とまれ とまれ」 こんな会話から、優しそうなおばばが鬼婆へと変身するくだりを想像して、お話を聞く子どもたちはもうドキドキしはじめているかもしれません。昔話にはこんな風にお話の展開にお決まりのパターンがあります。ところが、同じような展開でも子どもたちは飽きずにお話を聞きたがります。これはどうしてなのでしょうか?
昔話研究の第一人者小澤俊夫さんは、「子どもは既に知っているものと会いたがっている」とおっしゃっています。既に知っている出来事や経験と出会うことで、アイデンティティを確立し安心感を得るのだそうです。子どもたちが何度も同じ絵本を読んでとせがむのも同じ理由だとのこと。昔話は、そんな子どもたちの欲求を自然に満たしてくれる優れものなのですね。
『さんまいのおふだ』は新潟の昔話。雪深い山々がお話の故郷か?(雪の新潟・八海山をのぞむ)
さて、命からがらお寺へ逃げ帰った小僧さんを最後に救うのは、もちろん和尚さんです。でもね、この和尚さん、早く戸を開けてくれと焦る小僧さんを尻目に、慌てず騒がずのんびり着がえなんかしています。この時ばかりは、「早く開けてあげて!」と読者もかなり焦ります。
そんな和尚さんがどんな風におばばをやっつけるのか……知恵者の和尚さんとおばばの攻防戦は読んでのお楽しみといたしましょう。ということで、この記事も終わりが近くなりました。『さんまいのおふだ』にならって昔話風にお別れします。
いちご さかえた なべのした ガリガリ (※)
【書籍DATA】
水沢謙一:再話 梶山俊夫:画
価格:864円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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※「いちご さかえた なべのした ガリガリ」は、昔話の締め言葉の1つ。「めでたし めでたし はい、おしまい」といった意味