ショッキングな内容をどう語る?昔話の語り口
昔話がほのぼのとした温かなストーリーばかりでないことは、よく知られています。それでも、子ども向けにアレンジされた昔話に親しんできた人にとっては、口伝の昔話に触れるとその残酷さに衝撃を受けることがあるようです。昔の人たちは、そんなショッキングな内容の昔話をどのように子どもたちに語ってきたのでしょうか? 過激な内容をもつ絵本『かちかちやま』を通して、残酷な昔話をどのように読めばよいのかを考えます。残酷な出来事をサラリと語る絵本『かちかちやま』
「かちかち山」のお話で登場人物(お婆さんやたぬき)が命を落とすことが少なくなりました。大人が残酷と感じる内容が書き換えられているからです。けれど、小澤俊夫さんの再話による絵本『かちかちやま』では、語り継がれてきた「かちかち山」の内容そのままに、たぬきはお婆さんを撲殺し、ばば汁にしてお爺さんに食らわせるなど非道の限りをつくします。そしてそのたぬきも、うさぎから数々の仕返しを受け最後は溺死してしまいます。こんな風に書くと、何とも猟奇的な気味の悪いお話というイメージですが、不思議なことに実際にこの絵本を読んでみると、ずいぶんとその印象が違うことに気がつきます。なぜでしょうか? そこには語り口が影響しています。昔話の語り口は、残酷な出来事があってもそれを残酷には語らないのです。
例えば『かちかちやま』の文中にも「きねを ふりあげ、ばあさまを うちころしてしまいました」と書かれていますが、その殺害の様子を詳しく説明したりはしていません。もちろん絵で表現してもいません。ただ「うちころしました」と事実のみを伝えています。語るべき事実は伝えるが余計な描写は行わない……この点が、可愛らしさばかりが強調されるアニメ絵本の「かちかち山」や、凄惨な地獄絵図を見せつけるような流行の絵本とは一線を画す部分です。
この語り口は、昔話が伝承される過程で生まれた知恵であり、聞き手の子どもたちへの配慮だったのでしょう。余計な描写がないことで、残酷な出来事もお話を聞いた子どもたちの想像の範囲内での出来事に変換されているのです。ですから私たちも、たとえ残酷な内容を含んだ昔話絵本でも、過度な描写さえなければ昔の語り部たちと同様にサラリと読んでいけばよいと思います。
それでも、内容にショックを受ける子どもがいれば「ひどいたぬきだね~」などと読み手が子どもに寄り添っていけばよいのです。ただお話を聞かせるだけでなく、そういう気持ちのやり取りを大切にしながら読むことが大切です。そうすれば子どもたちは、大好きなお母さんや信頼できる人の声で語られる昔話を通じて、安心な環境の中で恐怖などの感情に慣れていくことができます。それは、子どもたちが大人になるための大切なプロセスの1つではないでしょうか?
【書籍DATA】
おざわとしお:再話 赤羽末吉:画
価格:1296円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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