IT活用による不動産ネット取引の最終とりまとめが公表される。
昨年6月には実証実験の結果などを踏まえた中間とりまとめが報告され、ITの活用による具体的なメリットとデメリットが論点整理されました。そして、ようやく今年1月末に最終とりまとめが公表されました。
その内容は「利便性」よりも「危険性」に配慮した慎重な内容になっています。最長2年間の社会実験を行い、その結果を検証・必要に応じて要件を見直したうえで本格運用に進めるという方向性が示されました。消費者の利益保護をないがしろには出来ませんので、“見切り発車”を避けた格好です。
はたして、不動産ネット取引は旧来の取引慣行を変えられるのでしょうか?―― 以下、本稿では中間および最終とりまとめの内容を紹介することにします。
消費者保護を目的とした法規制が、かえってネット取引を阻害する皮肉さ
宅地建物取引業法が施行されたのは昭和27年。取引の公正を確保し、宅建業者の健全な発達を促進し、もって消費者の利益保護と不動産流通の円滑化を図るために策定されました。ところが、不動産取引の知識に乏しい消費者に対して、誇大広告や契約後の条件変更など、不当な勧誘や不合理な契約を強要する業者が後を絶ちませんでした。そのため紛争が多発し、消費者保護が揺らいだことから、その都度、業法を改正し、「取引主任者による重要事項の説明義務」「契約書の交付義務」、さらに、なりすましや名義貸しを防止すべく「取引主任者証の提示義務」が追加されました。こうして現行ルールが形作られていったのです。
しかし、上記のような規制強化が不動産取引のIT化にとって、阻害要因となる皮肉な結果を招いています。重要事項説明が有効に成立には以下の要件を満たす必要があります。こうした要件が“対面以外”の方法では十分に満たせない可能性があるため、ネット取引の本格始動に踏み切れないでいます。
<最終とりまとめで指摘された重要事項説明の5つの成立要件>
- 取引主任者により重要事項説明が行なわれ、取引主任者証が提示されること。
- 重要事項説明を受ける者が契約者本人であること。
- 取引主任者が契約履行の判断に必要となる重要事項を重要事項説明の相手方に正確に伝達すること。
- 取引主任者と重要事項説明を受ける者とのやり取りに十分な双方向性があること。
- 重要事項説明書に記名押印し、交付すること。
現在の契約スタイルは、取引主任者が重要事項説明を受ける相手方と“対面”でやり取りすることを前提にしています。そのため、電子的手法による書面交付も認められていません。
最終とりまとめでは、その点、「対面でなくても、少なくともテレビ会議などであれば、重要事項に必要な要素を満たすことが可能であると考える」と述べています。ITの活用により地理的な制約が解消されれば、契約実務に要する時間的コストや金銭的コストの縮減が期待できます。さらに、書面交付についてはペーパーレス化が可能になり、郵送コストも抑えられるようになります。ITの利用拡大を加速させたいという政府の思いが透けて見えます。
「賃貸取引」と「法人間取引」で社会実験を実施 検証ののち本格運用へ移行
クリック1つでマイホームが買える日は、そう遠くないかもしれない。
また、取引内容にも配慮しており、まずは「賃貸取引」と「法人間取引」で社会実験を実施することにしています。
もし、トラブルが発生した場合、消費者が被る被害の大きさを考えての選択です。取り扱う金額が大きくなる「売買取引」は避け、「賃貸取引」から実験をスタートします。プロである宅建業者同士の取引(法人間取引)であれば、トラブルも少なくなるはずです。
最も気になる個人を含んだ「売買取引」については、上記実験の検討結果を踏まえたうえで本格運用の可否を判断します。実現するには一定の時間が必要になるでしょう。利便性の向上と引き換えに危険性が高まっては元も子もありません。慎重かつ確実に、ネット取引を前進させる周到さが欠かせません。
クリック1つで夢のマイホームが買える日は、そう遠くないのかもしれません。IT活用による不動産革命が、今、始まろうとしています。