トルコのブドウとワイン生産
トルコ・カッパドキアのブドウ
トルコのブドウ生産高は、世界第6位(2012年)。およそ1200種ものブドウが生産可能なトルコには特産ブドウ種も多く、ワインづくりに適した土壌と気候がそろった国だと考えられます。
ブドウを煮込んでペクメズを作る地元のおじさん
元々トルコは干しブドウ生産で世界トップ。さらに中央アナトリアではペクメズと呼ばれるブドウシロップも古くから食されており、トルコ伝統料理やお菓子にもブドウが多用されています。トルコ人に人気のお酒、ラクも原料はブドウ。歴史や文化を通して、ブドウはトルコ人に愛されてきました。
しかしトルコで生産されたブドウのうち、ワインになるのはほんの3~11%程度。基本的にトルコ国民の9割がイスラム教徒で、アルコールにかかる税金が高いという状況もあり、これまでトルコ人のワイン消費量はあまり多くないのが現状でした。
ブドウの産地、ユルギュップ市役所の銅像
しかしここ数年、トルコ経済の成長と共に若い世代や企業家の間でワイン人気が高まってきており、質のいいワインを作ろうという国内ブランドが増えています。とりわけ裕福層でワインを極めようとする人々も多く、国内ワイン消費の97%は地元トルコ産。トルコのワイン輸出量は毎年のように増加しており、今後世界的にもトルコワインの人気が高まりそうです。
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Wines of Turkey
トルコワインの歴史は意外と深い
今でもアンカラ近郊ボアズキョイで発掘作業が続けられているヒッタイト文明跡地
現在トルコ共和国に位置するアナトリア地方では、古くからワインが作られてきました。紀元前1680年頃に建国されたヒッタイト王国の法律書にはワインやブドウ価格についての記述があり、宗教行事では王が「パンを食べワインを飲んだ」と書かれた石盤も残っているのだとか。ワイン(wine)の語源であるvinやvinoという言葉はヒッタイト語でワインやヴィネガーをさす言葉だったことから、このヒッタイト文明が脈々と続くワイン文化の祖先だったと考えることもできます。
エーゲ海沿いの町は風が強い。この気候の中、ルーム人たちはブドウを育てワインを作ってきた
こうしてアナトリアのワイン生産は紀元前にまでさかのぼるのですが、イスラム教徒のトルコ人がアナトリアに来てからは、主に非イスラム教徒の少数民族(ルーム人やアルメニア人)がワイン生産を手がけていました(とはいえ、トルコ人もワインを飲んでいたようです)。1800年頃にはトラキア地方や地中海・エーゲ海沿いの島々で作られたワインがヨーロッパで賞を取るなど、世界的に人気を博す時期もあったのだとか。しかし、このワイン生産を担っていたルーム人やアルメニア人が歴史の波にのまれトルコを去らなければならなくなったことにより、トルコのワイン生産は大きな危機を迎えることになります。これを受け、トルコ共和国初期に建国の父・アタトゥルクがアンカラに国営ワイン醸造所を設立。現在も大手ワインブランドとして有名なカヴァックルデレ社やドルジャ社などはこれと同時期に創設された民間の会社で、こうして今度はトルコ人の手によるワイン生産がはじまったのです。
本業は建築家ながら、ボズジャ島を拠点にコルヴス・ブランドを立ち上げ大成功したレシット・ソレイ氏
1940年代に入ると国内ワイン醸造会社の数も増え始めましたが、当時のワインは質としてまだ世界スタンダードには追いつかないレベルだったと言われています。しかし1994年に「ワイン友好協会」が設立され、2003年にはアルコール専門誌Gustoが創刊。次第に質のいいワイン生産に関する情報交換も行われ始まりました。サバンジュ財閥のギュレル・サバンジュ女史や有名建築家レシット・ソレイ氏など、ワインを愛する企業家たちの中には趣味が高じて本格的なワイン醸造に乗り出人も出て来ており、次第にトルコワイン醸造のインフラが世界スタンダードに合わせて発達していきます。ブドウ生産やワイン醸造への投資も急激に伸び、カベルネ・ソーヴィニョンやシャルドネ、メルロー、シラーといった世界的に人気のブドウ種もトルコで作付けされるようになったり、絶滅の危機に瀕していたカレジックカラスの復活に成功するなど、ワインを愛する人々によってトルコワインはぐんぐん質を高めてきました。
今や最新の機器をそろえてワイン醸造を行うメーカーも少なくない
とはいえ、こうしたワイン関連の投資が実を結び市場に反映し始めたのは本当にここ数年のこと。2007年以降は大小多くのトルコワインブランドが「
Wines of Turkey」というロゴの元、一丸となって世界でPR活動を行うようになり、2010年以降はトルコワインが海外で多くの賞を受賞するようにもなりました。経済発展と共にレストラン業界も大きく発達しているトルコでソムリエ文化も定着し始め、今まさにトルコワインが世界的に注目を集め始めた旬の時期だといえます。
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