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カジノ解禁報道がされた背景と今後の見通し(2ページ目)

導入が検討されている「IR(カジノを中心とした統合型リゾート)」について、2020年東京五輪前に開業という情報が取り沙汰されている。カジノの詳細については、全ての関連法案が通った後、主務大臣によって決められるものであり、現在流れる情報はあくまで憶測に過ぎないが、もし合法化された場合、果たして五輪前の開業が本当にベストなのか? 日本にとっていつの開業が望ましいのか。

松井 政就

執筆者:松井 政就

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時間がかかる行政上の手続き

ただし話は簡単ではない。

まずハード面だが、IRは巨大な施設を擁するため設計や建設に長い日数がかかる。仮に日本企業がIRを運営すると仮定した場合、日本にはまだ1社単独でカジノのノウハウを持つ企業がないため、実際はホテルやエンターテインメント企業などの複数社が合弁する形で運営することが想定され、その組織形成にも時間が掛かる。

法律面はもっと複雑だ。日本ではカジノが刑法により禁止されているため大がかりな法整備を行わなければならない。そもそもカジノを合法化するならパチンコをギャンブルではないとする現状の「グレー」な状態を放置するわけにはいかないため、ギャンブル行政全体の改革が必要となり、カジノもその枠組みの中で行われなければならない。


未だ不透明な見通し

しかも肝腎の「カジノ推進法案」がなかなか進んでいない。

2013年秋の臨時国会で提出されたものの、審議が進まないまま2014年の衆院選に伴い廃案。今国会での再提出が予定されているが、それが通った1年後、さらにカジノ運営の具体的内容を定める「カジノ実施法案」を成立させる必要があるなど、見通しは立っていない。

2013年の段階では、私自身もカジノの開業が五輪に間に合えばいいと思っていたが、ここまで手続きが遅れてしまうと、突貫工事で進めることの弊害のほうが懸念される。

そこで、五輪前に開業という条件をいったん外し、五輪後に開業するという選択肢を考えてみる。


五輪の持つ光と影

五輪は世界最大のスポーツの祭典として華やかなイメージを持つ反面、開催後に不況をもたらす点が指摘されている。

たった2週間(パラ五輪を含めれば約1ヶ月)のイベントのために、過剰な投資をした負担がその後の地域経済に重くのしかかる負の側面、つまり「五輪不況」と呼ばれる弊害だ。

日本では1998年の長野冬期五輪後に、長野県がインフラ整備のツケに苦しんだことも知られている。

2014年の冬期五輪が行われたロシア南部のソチでも、開催地を国際リゾートとして発展させるとしてプーチン政権が国を挙げて取り組んだにもかかわらず、今や外国人観光客は減る一方で、リゾート計画は頓挫しているように、五輪の光と影は激しいコントラストをなしている。


「五輪不況対策」という選択肢

シビアに見れば、五輪の効果は約2週間という開催期間中のみに集中し、その後は確実に減衰していくが、カジノ(IR)は長きに渡って持続的に効果をもたらすことが可能だ。

つまり「五輪不況対策」としてカジノは有効な手段と言えるのだ。

これまでは五輪に間に合わせようとして、政府も業界も前のめりになってきたが、持続的に効果を生むカジノ(IR)の特性から、2020年東京五輪の開催後に満を持して開業という進め方も、今の日本にとっては十分に現実的な選択肢だ。

日本にとってカジノ合法化の作業はたった1回だけ与えられたチャンス。拙速な手続きを踏まぬよう、ギャンブル行政全体の改革も見据えて行うのが望ましい。
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