幼少の頃からの夢がかなった
『キャッツ』のミストフェリーズ役
『キャッツ』撮影:下坂敦俊
「はい。母に『キャッツ』初演に連れて行ってもらったんですが、あのテント、今も覚えています。帰りの道中で「ジェリクルソング」と歌いながら踊っていましたし、それから毎日のように『キャッツ』のテープを聞いていました。僕も出たい!と思いましたが、それはまだ漠然とした夢。母がバレエの先生だったのにも関わらず、小学生時代はバレエはやっていませんでしたね(笑)。
ですが中学に入って、やはり『キャッツ』が忘れられず、やっとバレエを始めました。とはいってもどうしても友だちと外に遊びに行くことが多くて(笑)、中学時代はレッスンはさぼりがちだったんですが、高校時代にさきほどもお話しした『CFY』との出会いがありまして、本格的にしっかりレッスンをするようになりました。そうしたらバレエが楽しくてなってのめりこみまして。バレエ団に所属して、古典作品のキャラクターをいろいろ踊っていました」
――全国舞踊コンクールでもパ・ド・ドゥ部門一位と、素晴らしい成果もあげられましたね。
「賞をいただいた後は、仕事もよくいただくようになって。ここから僕のバレエ人生が始まるんだろうなと思っていたら、劇団四季で『キャッツ』のミストフェリーズ役のオーディションをするらしいという話が舞い込んできたんです」
――迷いはなかったですか?
「確かにありました。バレエの仕事は順調でしたので、どうしよう、と。でも『キャッツ』は子供のころからの夢だったので、もうこんなチャンスは来ないだろうと、思い切って受けました」
『アンデルセン』(2009年)撮影:下坂敦俊
「演出家から、『キャッツ』をやる前にまず四季の舞台を体験しなさいと言われ、まずは『アンデルセン』のアンサンブルに出ることになりました。初めてのミュージカル、楽しかったですね。それまでバレエをしていた頃は、教室にいけば“先生、先生”と呼ばれて、一歩間違えば慢心してしまう危うさがありました。ですが、四季の人たちはステージに命をかけていて、みんなしっかり稽古するし、みんなで一生懸命一つの作品に取り組んでいる。その姿に感動しつつも、僕は何をしているんだろう、とショックを受け、本当にいい経験になりました」
――歌いながら踊ったのはその時が初めてだったのですよね。
「もちろん最初は声が揺れてしまったりもしましたが、これじゃダメだと思い、お腹で支える四季ならではの発声に徐々に慣れていきました。お腹にしっかり力を入れていれば、踊りながらでも声はちゃんと出るんですよ」
――二作目が『青い鳥』のチロー。早速ソロの歌もありましたね。
「子供のころから(『青い鳥』の旧題である)『ドリーミング』が大好きで青山劇場のこけら落とし公演にも何度も行きましたし、テレビ中継のビデオも、すり減って見られなくなるくらい繰り返し観ていたので、そのチロー役で出演ができて本当に嬉しかったです」
――そして翌年、待望の『キャッツ』ミストフェリーズ役です。
「感動しました。大きな夢だった『キャッツ』に自分が出られたことで、初出演の時には思わず、本番中に涙が出てしまいました。
でも役としては、ミストフェリーズはやってみるとこんな大変な役はないだろう、というくらいハードでした。後半にソロナンバーがあるのに加えて、そこでフェッテ(回転)をするんですね。かなり体力を消耗した後に一番の見せどころのフェッテが出てくるので、本当に大変で(笑)。」
『キャッツ』撮影:荒井健
「ミストフェリーズはどこかで世代交代していかなければいけない役なので、いいタイミングでチャンスをいただけたと思いました。マンカストラップは自分のナンバーこそありませんが、みんなを後ろからしっかり支える、かっこいい役でもあるんですよね」
*次ページでは近年演じてきた役柄、それらを演じる際に心掛けてきたこと、ちょっと意外(?)な「憧れ演目」や夢をうかがいました。