映画『幕が上がる』で描かれなかった2つのファクター
青春映画にありがちなシチュエーションなのに、『幕が上がる』の物語から外されている2つのファクター……それは「恋愛」と「対立」。さおりたちが通う高校は共学校。なのに演劇部には女子しか在籍しておらず(高校演劇あるあるですね)、他校との交流もほぼない為、彼女たちの恋心は”憧れ”に姿を変え、元・学生演劇の女王こと吉岡先生と、演劇そのものに向かっていきます。
また、1つの目標にチームが挑戦する場合、「起承転結」の「承」か「転」の部分で描かれることが多い”対立”もこの作品には一切登場しません。演劇部が全国大会に出場することを目標にした時からプレイヤーという立場を降り、演出に専念するさおりへの信頼感は絶大で、部員は全員彼女の言葉を真摯に受け止めます。中西さんの加入により、微妙な態度を取るユッコの感情も敵意まで強くはなく、どちらかというと混乱に近いもの。と言うかこの作品、悪い人や悪意のある人間が1人も出て来ないんですよね。皆が綺麗な思いを胸に1つの目標に向かって行く。
(C)2015 O.H・K/F・T・R・D・K・P
夢を追い掛けた全ての元・少年少女たちに刺さる作品
……と、ももクロ5人の魅力を体感する作品であるのは勿論、何か1つの事に必死に食らいついていった経験がある大人たちにも刺さる映画であることは間違いありません。劇中、彼女たちが目指すのは高校演劇の全国大会ですが、3年生がメインで舞台を創ってその切符を手にしたとしても、全国大会が実施される時期に既に3年生は卒業してもう高校には居ないのです。後輩たちに未来を託すために、受験勉強や遊ぶ時間を稽古にあて、自分の全てを賭ける少女たち……切ないです、甘苦いです……だからこその「強さ」が胸に迫ります。更に、そんな彼女たちに突き動かされ、ある選択をする吉岡先生。少女たちがピュアに頑張る姿も美しいですが、一度挫折した大人が再チャレンジするには半端ではないエネルギーと覚悟が必要。少女たちが目指すのが「夢」の世界なら、吉岡先生が向かうのは「夢+付随する面倒臭さやある種の汚さ」……それら全てを包括した現実世界。彼女の決意も違う形で大人の胸に矢を放ちます。そういう意味でも西新宿の高層ビルのシーンは象徴的でした。そう、東京と言う巨大な街に対しての「憧れ」と「現実」の対比として。
本作は5月1日からZeppブルーシアター六本木での舞台公演も決定。舞台版では原作小説の作者である平田オリザ氏が台本を書き、演出は映画と同じく本広克行氏が担当します。
”現代口語演劇”という言葉を演劇界に知らしめ、どちらかというとエンターテインメントの世界とは微妙な距離感を保っていた平田氏が、ももクロという稀代のエンターテイナーをどういう形で舞台に上げるのか。そして2月18日現在、まだ発表されていない他の出演者はどういう人選なのか……ももクロファンならずとも気になるところでしょう。
ほんの一瞬、誰にでも訪れる”青春”という人生の奇跡。そんな奇跡をもう1度私たちに見せてくれるももいろクローバーZ主演の『幕が上がる』。3分に1回は”演劇”という言葉がスクリーンに乗る、演劇愛に溢れた青春群像劇です。是非あなたも劇場で彼女たちに胸をきゅんと掴まれて下さい。
【関連リンク】『幕が上がる』公式サイト