糖尿病/糖尿病と腸内細菌

呼気中のメタンと水素がメタボや糖尿病の兆候になる!?(2ページ目)

呼気中にメタンと水素の両方が含まれていると、BMIや体脂肪率が大きくなるという研究が2013年3月に米国で発表されました。この論文が肥満と2型糖尿病の増加に苦しむ米国で大きな話題になったのは、この2つのガスの生成が腸内細菌によるものだからです。

執筆者:河合 勝幸

呼気テストでメタンと水素が検出されると、大きなBMIと高体脂肪率につながる

2013年3月26日に電子版で発表されたこのタイトルの論文はロサンゼルス(米)のCedars-Sinai Medical Centerで糖尿病外来のディレクターをしているRuchi Mathur医師が中心になって行われたものです。彼女はメタボのような糖尿病前症(Prediabetes)の研究で著名な、内分泌を専門とする医師です。

動物実験では、メタン産生菌が多く常在すると太ってしまう事が分かっていた

動物実験では、メタン産生菌が多く常在すると太ってしまう事が分かっていた

かねてから動物実験でも腸管にメタン産生菌が多く常在すると宿主の代謝に影響して太ってしまう事が分かっていました。また、肥満者でも呼気にメタンが含まれる人は超肥満者に多いことが知られていました。

「減量(肥満)手術は『魔法の治療』への近道かも!?」「肥満症手術で、2型糖尿病が『治る』理由」で紹介した胃バイパス手術を受けた肥満者でも、術前に特に呼気中にメタンがはっきりと検出された人はBMIが他の肥満者よりも平均7ポイントも高い超肥満者だったのです。なぜメタンが呼気に出てくるのでしょうか?

この試験は連続して呼気テストを受けてもらえる一般人を対象にした「前向き研究」です。呼気中のメタンと水素、二酸化炭素を分析することで、腸内で水素H2と二酸化炭素CO2からメタンCH4を合成するメタン菌(Methanobrevibacter smithii)の繁殖を推定し、体重とBMI、体脂肪率の相関を調べたのです。

延べ792人の参加者は前夜から12時間の断食後にセンターに集まって呼気テストを受けました。まず通常の呼気テストをしてから10gのラクチュロース(lactulose)シロップと250mlの水を飲み、15分毎に2時間にわたって呼気を収集しました。

参加者は呼気に異常のなかったグループ、水素が検出されたグループ、メタンが検出されたグループ、水素とメタンが検出されたグループに分けられました。グループごとのBMIと体脂肪率を比較したところ、呼気に水素とメタンが検出されたグループが明らかにBMIと体脂肪率が高かったのです。

この結果だけを聞かされても特に何も感じることはないでしょうが、この試験には多くの目的が隠されています。まず、対象者がごく一般の人であったこと。そして呼気テストが2時間以内で終了していることです。腸内細菌というと誰でも大腸を思い浮かべますが、2時間以内の検査は最初から小腸の腸内細菌叢をターゲットにしています。食物とともに摂取した微生物は強い胃酸でほとんど滅菌されますから6~7mもある長い小腸の前半は問題になるほどの腸内細菌はいないと考えられていました。大腸に接する回腸あたりから腸内細菌の侵入が見られるのです。

ところが糖質を摂取して2時間以内に水素やメタンが検出されるのは、通常は大腸(結腸)にいるはずの腸内細菌が何らかの原因で多量に小腸(普通は空腸)にいる証しになります。この試験で投与した二糖類のlactulose(ラクチュロース)は合成二糖類で小腸の消化酵素では分解吸収されません。大腸で水分を含有するので慢性便秘症治療に使われたり、大腸でアンモニアを吸収する性質があるので肝臓病にも用いられる医療用の糖類です。ラクチュロースは腸内細菌のみに分解される合成糖類です。

この腸内細菌の小腸における異常繁殖の流行が現代人の肥満の一因ではないかと考える研究者が大勢います。酸素のない腸内でメタン生成菌が水素を多く代謝してメタンCH4を作ると、エネルギー源の水素の循環がスムーズになって他の腸内細菌の水素の生成をさらに活発にして短鎖脂肪酸(ギ酸、プロピオン酸、酪酸など)の合成が増え、それを体が吸収して肥満になりやすくなるという考え方です。

普通は消化吸収しない食物繊維や難消化炭水化物を小腸で短鎖脂肪酸にしてしまうと、同じものを食べても人よりも多くのカロリーを吸収するという仮説です。別の研究で犬による実験でもメタンガスがあると食物の腸内移動の速度が約1/2に遅くなることが確かめられています。その分カロリーの吸収率が上がるのでしょう。

そして、これらの腸内細菌の動向を常にコントロールしているのが小腸にある免疫システムなのです。私が子供の頃にはついぞ見かけなかった花粉症がこれ程流行しているのは、あまりにも清潔になった現代社会の負の面だと指摘されています。安全すぎる、きれい過ぎる食物だって腸管免疫の調子を狂わしているのかも知れません。それが肥満につながり、2型糖尿病のまん延になるのなら、やはり「20世紀病」の代表の一つです。

R. Mathur医師は全く同じ食事を3日間複数の人に食べてもらって、出てきたウンチの残存カロリーを比べる奇想天外な試験もやっています。どうぞ、結果をお楽しみに!


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