肥満の一因が腸内細菌にもあるのなら、プロバイオテックサプリやターゲットを絞った抗生物質の利用で操作できる時代が近づきます
この論文が肥満と2型糖尿病の増加に苦しむ米国で大きな話題になったのは、この2つのガスの生成は腸内細菌によるものだからです。腸内細菌なら食習慣の改善とプロバイオティクス、プレバイオティクスに注目した機能性食品が役立つ事が期待できます。でも、この分野の研究がエキサイティングなのはビフィズス菌の話だけではなく、私達の身体に棲む100兆超の微生物とそれをコントロールしている免疫システム、更には免疫の遺伝子にまで行き着く、数々の難病の解明につながる道の一つでもあるからです。
腸内細菌叢(そう)、腸内フローラ、腸内細菌群集、腸内常在菌などは全て同じ意味です
私達の体にはぼう大な数の細菌、微生物が共生しています。大腸の中だけでも重量にして1~1.5kgもの腸内細菌が生息していて、その種類は1000以上もあると考えられています。腸内細菌の比重は水とほぼ同じ1とされていますが、なにしろ大きさが体の細胞の1/10~1/100と微小なので個体数だけは身体中に100兆~1000兆個もいるとされていますから、とてもイメージできません。この腸内細菌を集団としてとられるときに、前回の記事「カロリーを控えるための人工甘味料で高血糖になる!?」では「腸内細菌叢」、2011年の記事「腸内細菌と糖尿病…その深い関係の研究(1)、(2)」では「腸内フローラ」という言葉を使いましたが、特に意味があって使い分けた訳ではありません。叢(そう)という字は「草むら」ですし、フローラ(flora)は「花の女神」が原義で植物相や微生物叢を指します。いずれも植物に縁がありますが、これは顕微鏡の発明で微生物が発見された時に微生物が「植物」に分類されたことによるのだそうです。
微生物叢としては英語でも学術論文ではmicrobiotaを多く見かけますが、同義語の異表記が英語でも日本語でもいろいろあります。一般向けのニューヨークタイムズ紙のコラムではmicrofloraを見たことがあります。当記事の腸内細菌叢は"gut microbiota"と表記された論文を多く参考にしているので「叢(そう)」を使います。
次ページでは、腸内細菌叢と肥満の研究を詳しく見ていきます。