演歌・歌謡曲/大衆演劇

里美たかしインタビュー後半

今回インタビューするのは『劇団美山』三代目座長、里美たかし。今各地の劇場で並外れた観客動員を記録している大衆演劇界きっての人気スターだ。若干12歳で座長となり、座員わずか4名の弱小劇団を現在にまで育て上げた男の人となりに迫る。

中将 タカノリ

執筆者:中将 タカノリ

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『里美たかしインタビュー前半』はこちら
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今回インタビューするのは『劇団美山』三代目座長、里美たかし。
今各地の劇場で並外れた観客動員を記録している大衆演劇界きっての人気スターだ。

若干12歳で座長となり、座員わずか4名の弱小劇団を現在にまで育て上げた男の人となりに迫る。

人気劇団へのきっかけ

筆者:今、座員は何人いらっしゃるんですか?

たかし:18人です。

筆者:たった4人から再旗揚げして今のような人気劇団になるまでにはいろんな段階があったと思います。
自分の劇団や演技が「評価されてきたな」って感じたことはありましたか?


たかし:評価というか「劇団としてノッてきたな。うまくいってるな。」って感じることはありましたね。それがやっと5年前、俺が24、5歳の頃です。
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筆者:けっこう最近なんですね。なにかきっかけみたいなものはあったんでしょうか?

たかし:名古屋の鈴蘭南座という劇場でいい結果を残すことができたんですよ。そしたら噂を聞いてもらえたのか関西の劇場にも呼ばれるようになったんです。

筆者:やっぱり今、関西が大衆演劇ブームみたいな感じですもんね。

たかし:はい。それからは毎年関西に来れるようになりました。

筆者:それまではやっぱり苦労することが多かったんでしょうか?

たかし:12歳から……やっぱりくやしいこともありましたよね。父親も俺にあえてそれを経験させるために座長をやらせたのかもしれないし。いろんなことを教えてくれたけど、助けてはくれなかったですから。

父から受け継いだもの

筆者:今振り返ってお父上はどんな役者でしたか?

たかし:この業界って、子供に対しては「俺の芸を受け継げ!」ってタイプの人が多いと思うんですけど、父親はそうではなかったですね。「自分の芸風をお前にやれと言ったって合うかどうかわからない。」って。

筆者:時代によって変わらなければいけない部分も多いでしょうしね。

たかし:照明、音響、着物、鬘……そういう部分でも旗揚げした頃から比べたら全然変わってますからね。昔は照明なんか劇場にあるものを使うだけでしたから。鬘も今でこそ金髪とか青とかあるけど、昔はオーソドックスな黒の日本髪だけだったし、とにかくいろんなことが変化してます。

筆者:お父さんからしても、今後の変化に対応していくためにはむしろ子供のたかしさんのほうがうまくいくんじゃないかと思ったのかもしれませんね。

たかし:そうですね。ただ、逆に固い部分もありました。

筆者:と言いますと。

たかし:芝居に関してですけど「役に合った支度をしなさい」ってことですよね。あくまでうちの劇団としての考えになるんですけど「時代劇に
茶髪はおかしい」、「侍なのにやくざ者みたいな恰好ではいけない」とか。

筆者:ここ最近では金髪のちょんまげ映画とかも作られてますけど、そういう流行には迎合しないってことですね。

父の死が与えたもの

筆者:お父上はたかしさんが20歳の時、座長として成長しているさ中に亡くなってしまわれたんですね。お若くして亡くなられたんですか?

たかし:いや、俺はけっこう遅い子供だったんで亡くなった時はもう七十数歳になってましたね。

筆者:やっぱり大きな衝撃があったと思うんですが。

たかし:変われた自分はいますね。それまで父親がいて楽ができていた部分ってあったと思うんですよ。それが亡くなったらとたんに全部俺にふりかかってきましたから。
それからはとにかくハングリーですよね。負けてたまるかっていう……劇団つぶすわけにはいかないですから。

筆者:その頃もまだ劇団は厳しい状況だったんですか?

たかし:劇団員は増えてきてたけど、みんな十代半ばとか若すぎてクラブ活動みたいな感じでしたからね。

筆者:渋いお芝居するにはまだ辛いかんじですかね。その頃のお客さんの動員数とかって覚えていますか?

たかし:正味、厳しかったと思います。「この劇団、子供ばっかりやな」とか「学芸会みたいやな」とか言われましたしね。いつも「クソっ!」って思ってましたよ。

筆者:それでもあえて年輩の役者を入れたりせずにやってこられたんですね。

たかし:そうですね。でもその頃から居続けてくれる子たちがようやくいい年になってきて今があります。十数年、家族みたいに一緒にやってきてお互いのこともわかりあってるからやりやすいんですよ。大変な時はあったけど、今となったら本当によかったなと思いますね。

人気劇団ならではの悩み

筆者:いろんな試練をくぐりぬけて現在に至る劇団美山ですが、人気劇団ならではの悩みってありますか?

たかし:正直、今でも人気なのかどうかはわかりませんけど(笑)
たしかに昔とはまた違った苦しみはありますよね。どこまで今の動員数を持続できるのかとか……むしろ劇団始めたころの方が純粋に楽しくはありましたよね。

筆者:ほかの人気劇団とくらべて差別化とか……意識することってありますか?


たかし:それは考えないようにしてますね。他人の結果を気にしたらきりがないから、自分たちの結果をストイックに追求していきたいなって思ってます。

ウケる芝居と好きな芝居

筆者:取材の中で『人斬り以蔵』というお芝居を観させてもらいました。大衆演劇のお芝居や時代劇っていうよりは現代劇のセンスに近い内容でしたね。
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主役から脇を固める役まで個々の役者の個性が光っていて、とても見ごたえがありました。
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たかし:もともとは劇団新感線さんのお芝居なんですけど、それをうちの劇団に合うようにアレンジしてやらせてもらってるんです。

筆者:ただでさえ台詞量が多いのにその上に土佐弁や薩摩弁を使い分けたり、幕末の志士の名前をフルネームで覚えたり大変なんじゃないかなと思いました。

たかし:方言が難しくてしゃべってるうちに意味わからなくなってきますね(笑)

筆者:ふだんのお芝居はたかしさんが作るものが多いんですか?


たかし:俺が作るものもありますし、先輩から教えてもらったものとかいろいろやりますね。

筆者:中でもたかしさんの好みってどんな作風のお芝居なんでしょうか?

たかし:見せたい芝居っていうのはあるんですよ。『人斬り以蔵』みたいな芝居は自分の中では好きなんですけど……でもそれがウケるとは限らないのが難しさですね。

筆者:お客さんそれぞれの好みもあるだろうし、年齢にしたってすごく幅広いですもんね。

たかし:昔ながら痛快剣劇とか、コテコテの演歌をBGMにしたやくざものとか、大衆演劇らしい芝居が好きだっていう人も多いですからね。まぁいろんなことをやるのが大衆演劇の面白い部分でもあるんですけどね。

しんどいけれど今やらなければ

筆者:ここ最近の公演先ってどんな感じでしたか?

たかし:7月が名古屋の鈴蘭南座、8月が大阪の朝日劇場、9月、10月が東京の木馬館篠原演芸場、11月が今お世話になってる神戸の新開地劇場、12月が大阪の梅田呉服座、1月が広島の清水劇場、2月がまた大阪の八尾グランドホテルですね。

筆者:都会の有名劇場ばかりですよね。良くも悪くも反響が大きくなるし、体力的なことはもちろん、プレッシャーも大きいんじゃないかと思いますが。

たかし:正直しんどいです。劇団員の子たちもしんどいんじゃないかと思いますけど……でもいただいた仕事なんでそんなこと言ってる場合じゃないですよね。今やらなければいけないって思います。
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筆者:みんないい汗かいてるんですよね。劇団美山は初めて観た瞬間に「今キテる!」ってわかるオーラがありました。今後のさらなるご活躍に期待してますよ。
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