ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Creators Vol.4 『∞/ユイット』演出家、小林香

2010年の『DRAMATICA/ROMANTICA』以来、華も実もあるキャスティングと、ジャンルに囚われないユニークな舞台で人気を集めるシリーズ「SHOW-ism」。その第8弾『∞/ユイット』が、間もなく開幕します。シリーズの生みの親で、『カルメン』『ロコへのバラード』といったミュージカルや「StarS」等のコンサートでも目覚ましい活躍を見せている演出家が小林香さん。創作の意図と原点を伺いました。*観劇レポートを追記しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

小林香undefined京都府出身。同志社大学法学部卒。東宝(株)演劇プロデューサーを経て独立、舞台演出家、作詞・訳詞家として活躍。主な作品に演出SHOW-ismシリーズ、『ifi(イフアイ)』『ロコへのバラード』『カルメン』、StarSコンサート、訳詞『ブラッド・ブラザーズ』『ボニー&クライド』『next to normal』、第81回NHK全国学校音楽コンクール高等学校の部課題曲「共演者」作詞ほか。(C) Marino Matsushima

小林香 京都府出身。同志社大学法学部卒。東宝(株)演劇プロデューサーを経て独立、舞台演出家、作詞・訳詞家として活躍。主な作品に演出SHOW-ismシリーズ、『ifi(イフアイ)』『ロコへのバラード』『カルメン』、StarSコンサート、訳詞『ブラッド・ブラザーズ』『ボニー&クライド』『next to normal』、第81回NHK全国学校音楽コンクール高等学校の部課題曲「共演者」作詞ほか。(C) Marino Matsushima

*4ページ目に観劇レポートを追記掲載しました*

『カルメン』『ピトレスク』『ロコへのバラード』といった作品で力強く生きるヒロインたちを描き出すいっぽう、StarSをはじめとするコンサート演出では彼らの魅力を存分に引き出し、俳優たちの信頼も厚い小林香さん。東宝のプロデューサー出身というユニークな経歴を持つ演出家・作詞家の彼女が目下、取り組んでいるのが、いまや代表作ともなっているシリーズ「SHOW-ism」第八弾『∞/ユイット』です。シリーズとはいえ、毎回様々な趣向を凝らし、前回とはがらりとテイストが変わることもある「SHOW-ism」。まずはそのコンセプトからうかがいましょう。

日比谷の「品格」にふさわしい舞台を意識した「SHOW-ism」

『ピトレスク』写真提供:東宝演劇部

『ピトレスク』写真提供:東宝演劇部

――ご覧になったことのない方もいらっしゃると思いますので、「SHOW-ism」の定義から教えていただけますか?

「最初は“みんなでハッピーになろう”というモットーを掲げて始まったんですね。お客さまがハッピーになることが第一ですが、作っている人、劇場のスタッフもみんなハッピーになれるような成果を意識して、パンフレット等にもそのモットーを載せたくらいです。定義としては、SHOW-ismというタイトルなのでショーに特化したもの。とはいえ、日本語の“ショー”ではなく英語の“show”のつもりなので、レビュー、ミュージカル、お芝居とジャンルを問わず、日比谷に、そしてシアタークリエにふさわしいものを発信していこうというコンセプトで作っています。オリジナルミュージカルをどんどん創りたいという希望も密かにあります」

――日比谷、そしてシアタークリエにふさわしいもの、とは?

「シアタークリエにふさわしい“品位”、東宝が持っている劇場の格というか品性というものは意識しています。昔、初めて東京に出てきた時に、帝国劇場で『レ・ミゼラブル』を観ようと日比谷駅に降り立ったら、看板に“日比谷演劇エリアはこちら”とあって、演劇街というものが日本にある、ということにとても感動したんですね。大学の卒論では小林一三さんをテーマとしていて、小林一三さんはじめ日比谷の演劇街を作られた創世記の方々の伝記本もいっぱい読んでいたので、私にとって日比谷と言うエリアは特別なところなんです。
『ピトレスク』写真提供:東宝演劇部

『ピトレスク』写真提供:東宝演劇部

その日比谷にどんな舞台がふさわしいかというと、やっぱり“現実を忘れさせてくれるもの”が第一に来るのではないかと思います。ただ、SHOW-ismシリーズの前作『ピトレスク』の時には第二次世界大戦をモチーフにしていて、その時、あえて日比谷でマイナーなテーマを扱う、という意識の仕方ができたんですよ。現実を忘れられるような、夢を見られる舞台も創れば、日比谷であえてエッジの効いたことを物申すということも、臨機応変に(SHOW-ismシリーズでは)やっています」

――『ピトレスク』は音楽的に豊かな舞台で、特に終盤の多重唱は圧巻でした。

「ポリフォニー的なナンバーですね。有難うございます。“苦々しい事実”をどうやってお客さんの胸に置くか、そのやり方はすごく考えます。荒々しく置くのか、いつのまにか置くのか、甘い香りがするけど食べてみるとぴりりと辛いというやり方にするのか。『ピトレスク』の場合は、テーマがものすごく重いものだったので、重いまま届けないほうが逆に残るかなと思って、音楽やダンスを使ったりしたんですね。あのポリフォニーに関しては、あれだけの表現力豊かな役者さんが揃ったので、胸の中の悲鳴のようなものを表すには逆に言葉がいらないかもしれない、と思ってあのような演出になりました」

――他の演出家の方々と比べて、音楽的ボキャブラリーの豊かな方だと感じます。

「音楽の力もダンスの力もものすごく信じているとは思います。作詞をやっている時にも、歌の力は非常に感じるところでして、メロディもそうですが、そこで発する声の伝えるものは大きいとしみじみ感じています。音楽には翼があると思うので、その翼はおおいに使って書きたいですね」

――舞台づくりの手順としては、まずテーマがあり、それに相応しい表現方法を決め、それから細部を詰めてゆくという感じでしょうか?

「まずは自分の中で“ここに行きたいんだ”というものが出来、キャスティングの過程でその方の才能や個性によっていろんな道を通りながら、最終的に到達したかったところへと行きます。あて書きもかなりしますね。
『ピトレスク』写真提供:東宝演劇部

『ピトレスク』写真提供:東宝演劇部

例えば『ピトレスク』では最初に、人生経験の豊かな歌の上手な人の枠があって、そこにクミコさんがキャスティングされ、クミコさんにあわせて細部を書き直しました。コメディリリーフ的なピョートル役に岡本知高さんが決まってからは、岡本さんがミュージカル初ということもあって、ご自身の中にあるものを駆使しながら役を作っていただけるよう、意識して書き直しました。

こういった“あて書き”をするには、最初にお目にかかるときの印象がとても大事です。対面してお話するだけでなく、例えば向こうのほうで誰かとお話されている様子なども観察して、その方のアプローチの仕方やキャラクターを役に加えてゆくようにしています」

*次ページではいよいよ最新作『∞/ユイット』についてうかがいます!
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