『メンフィス』
1月30日~2月10日=赤坂ACTシアター『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
50年代アメリカで初めてブラックミュージックをラジオで流した白人DJの実話をもとに、音楽が人種差別に風穴を開けてゆく様を描いたミュージカル。2010年のトニー賞で作品賞、脚本賞、作曲賞、編曲賞を獲得した話題作が、ついに日本に上陸します。出演は、ナイトクラブで歌姫フェリシアの歌声に魅了され、彼女の歌を放送する青年ヒューイ役に山本耕史さん、フェリシア役に濱田めぐみさんほか、ジェロさん、JAY’EDさん、吉原光夫さんら、豪華にして実力派揃い。作曲はハード・ロックバンドBON JOVIのデヴィッド・ブライアンで、ソウル・ミュージックはもちろん、BON JOVIを聴いたことのある人ならすぐにそれと分かるロックも登場。濃厚かつノリノリの音楽世界が楽しめます。日本版の演出はインドネシア出身、NYで活躍する演出家のエド・イスカンダル、振付はビヨンセのPV等で知られるジェフリー・ページが担当するのも話題。
『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
昨年11月、赤坂ACTシアターにて行われた製作発表では、まず山本さん、濱田さん、ジェロさん、JAY’EDさん、吉原さんによるナンバーの披露が。『メンフィス』メドレーではソウルフルなナンバーがムードたっぷりに歌われ、最後にBON JOVI風の爽快なロックナンバー「スティール・ユア・ロックンロール」を全員で歌唱。昂揚感さめやらぬなか、続いてホリプロの堀義貴社長が主催者挨拶。「音楽の素晴らしさを描いた作品を、魂で歌う俳優さんたちで上演します」と語り、脚本・作詞のジョー・ディピエトロからの「愛と音楽で困難に立ち向かった人間の話を日本の皆さんと分かち合えることを嬉しく思っています」というメッセージも読み上げられました。
『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
【初日観劇レポート】
『メンフィス』左からデルレイ役ジェロ、フェリシア役濱田めぐみ、ヒューイ役山本耕史 撮影:田中亜紀
人種差別がまかり通る社会のなかで、ここだけは聖域とばかりにフェリシアはのびのび、心から楽しんで歌い、若者たちも踊る。その声に導かれてふらりと入ってきた白人青年、ヒューイ(山本耕史さん)。「なぜ白人のあんたが?」といぶかしがられるヒューイですが、彼らの音楽に自然に溶け込み、共に歌い踊る姿に、フェリシアたちのみならず観客たちもすぐに悟らされます。「彼は心からこの音楽が好きなのだ」と。
『メンフィス』左からヒューイ役・山本耕史、フェリシア役・濱田めぐみ 撮影:田中亜紀
余計な説明を排し、音楽の力で観る者のハートを鷲掴みにする舞台はこの後、ヒューイがその無鉄砲なまでの純粋な音楽愛で、ラジオ局で初めて黒人音楽を流し、音楽を通して社会に風穴をあけてゆく様をスリリングに描いていきます。中央に川に見立てた赤い通路、左右に橋に見立てたステップを置いた伊藤雅子さんによる舞台美術を活かし、人物の置き方に配慮しながらテンポのよい芝居を紡いでゆくエド・イスカンダルさんの演出手腕。そしてサクセスストーリーの疾走感ばかり強調せず、台詞の端々に潜む社会問題の重さをしっかりと伝える俳優たちの技量にも唸らされます。
『メンフィス』ヒューイ役・山本耕史 撮影:田中亜紀
フェリシア役の濱田めぐみさんは、艶やかなその声質は本来、ブラック・ミュージックではあまり聞かないタイプと言えますが、技術的に「それらしく」聞かせるのではなく、ミュージカルの発声で一音一音をクリアに聞かせつつも、歌に込められた人間の悲喜こもごもを細やかに表現。『アイーダ』『ウィキッド』『カルメン』等で虐げられる立場を演じてきた経験が、今回の役でも大きく活きているようです。ヒューイを愛しながらも、現実を見、自分の道を歩いてゆく女性像にも、濱田さんならではの力強さが。
『メンフィス』フェリシア役・濱田めぐみ 撮影:田中亜紀
舞台は終盤、やや哀愁を帯びて終わりかけますが、最後の最後に素敵なサプライズが。すべてを乗り越え、今ある生を「肯定」しようとするフィナーレは何とも爽快です。“ミュージカル、かくあるべし”と思わせる、傑作舞台の誕生です。
*次ページで『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』以降の作品をご紹介します!*