『富士山うたごよみ』は2つの顔を持つ絵本
突然ですが、みなさんは本の巻末にある奥付をじっくりご覧になったことがありますか? 本の題名や著者名、出版社といった書籍情報が記載される奥付ですが、『富士山うたごよみ』の奥付を見ていて面白いことに気がつきました。書名の英訳が『ENJOY MOUNT FUJI!』になっているのです。邦題とは少しニュアンスの違う英訳……はたしてこの本は、「うたごよみという歌集」なのでしょうか、それとも「富士山を楽しむ画集」なのでしょうか? 実は、どちらの顔も持つとても贅沢で芸術的な絵本なのです。この本は、四季の美しさとその移ろいを歌う歌集だ!
『富士山うたごよみ』は、俵万智さんがU.G.サトーさんの富士山の絵に出合い、初めて子ども向けに短歌を選び、文を書き下ろして出来上がった絵本だそうです。立春から始まって大寒まで二十四節気のそれぞれにあわせ、その時季の歌が選ばれています。絵本の体裁をとってはいますが、まぎれもなく俵万智さんの歌集の1つなのです。7月7日「小暑」のページでは、もちろん『「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日』が紹介されています。この歌は恋愛歌ではありますが、俵さんは解説の中で、小さな読者に「自分だけの記念日を作るのも楽しいよ。」と提案しています。
四季折々に、1つ2つと自分だけの特別な記念日を増やしていけたら、子どもたちの日々の生活にこれまでとは違った彩りが加わっていくのかもしれません。収められている俵さんの歌の数々が、そんな風に季節を彩っていくためのヒントを与えてくれるように思います。
この本は、日本一絵になる山・富士山を楽しむ画集だ!
さて、そんな季節の歌に添えられているのは、U.G.サトーさんの富士山の絵です。富士山とは全く関係ない内容の歌なのに、なぜか全て富士山をモチーフにした絵があわせられています。しかも、どう見ても富士山にしか見えないのに富士山ではなかったり、反対に絶対富士山ではないのに富士山に見えるといっただまし絵のような不思議な絵ばかり。例えば、
- 「雨水」の絵は、箱からのぞくティッシュペーパーが富士山の形そのもの。
- 「大暑」の富士山は、アイスクリームで、アイスをすくったスプーンの上には赤ちゃんの富士山がちょこんと乗っています。
- 「立冬」では、枯葉の虫食い中に紫色の富士山がそっと隠れています。
富士山は美しいだけでなく、日本一人々に愛されている山だ
そうそう、最後にもう1つ気付いたことがあります。まさかとは思いましたが、U.G.サトーさんの本名は佐藤雄治さんでした!
【書籍DATA】
俵万智:作 U.G.サトー:絵
価格:1404円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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