快刀乱麻に謎を解く?!『ひつじのコートはどこいった』
この絵本は、まるで「火曜サスペンス劇場」のようなサスペンス絵本です?! その証拠に、物語の予告編ともいうべき表紙には、楽しげな主人公たちを見つめる卑劣な(?)犯人の姿がはっきりと描かれているのです。ただ、1つだけ「火曜サスペンス劇場」と違うのは、これがお笑い系ミステリーだということです……。断崖絶壁はないけれど、犯人は決して逃がさない
ある日、3匹の羊・ヒューとジョジーナとゴゴールが海水浴に出かけます。楽しいバカンスになりそうですが、こんな時ほど気をつけなくてはいけません。そう、いつだってサスペンスドラマでは事件は風光明媚な観光地で起こるのですから。予想通り、海水浴場で出会った親切そうなオオカミたちに騙され、3匹は大切なコートを盗まれてしまいます。コートといっても、普通のコートではありません。彼らにとっては大切なムートンの……、おっと、これ以上は申せません。とにかく、読者のみなさんが想像するのとは全く違う、特別なコートなのです。
彼らは、犯人のオオカミたちを直ちに追跡。もちろん警察の手など借りるものですか! だって、サスペンスドラマ型絵本ですもの。犯人は自らの手で追いつめると決まっています。そんな彼らを手助けするのは、ジョジーナのいとこのオットー。中折れ帽にサングラスというオットーのいでたちは、どこから見ても探偵です。
オットーの推理と地道な調査で、ついにオオカミたちのアジトをつきとめた羊たちは、協力者と共にアジトへ踏み込んだのでした。ただ1つ残念なのは、その場所が断崖絶壁ではないこと。そのかわり、イギリスで活躍する作者らしく、ラグビーをからめた意外な方法で犯人を追いつめるので、断崖絶壁は我慢しましょう。
オオカミたちは、この羊の「コート」も狙っているかも……
視聴者の期待を裏切らない「サスペンスドラマの法則」は、絵本の世界にもあてはまりましたね。さらにこの絵本は、読者の意表を突く「羊のコートの正体」や「オオカミたちの本業」「犯人逮捕のドタバタ劇」など笑いのテイストも加えて、「お笑いミステリー」という絵本における新ジャンルを確立しました?!
しかも、「殺人事件ナシ、極悪人ナシ、ほっこり系エンディング」と子ども向けと呼ぶにふさわしい3つの要素が揃ったミステリーです。もしも江戸川乱歩賞(※)に絵本部門があったなら、受賞間違いなしだと思うのですが、いかがでしょう?
【書籍DATA】
きたむらさとし:作
価格:1404円
出版社:評論社
推奨年齢:4歳くらいから
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※ < 参考 >
江戸川乱歩賞は、1954年、江戸川乱歩の寄付を基金として、日本推理作家協会(旧・日本探偵作家クラブ)により、探偵小説を奨励するために制定された文学賞です。 (Wikipedia 江戸川乱歩賞より) もちろん、絵本部門はありません。