古典落語の演目から生まれた落語絵本『はつてんじん』
学問の神様、菅原道真がまつられている「天満宮」に、新しい年になって初めてお参りにいくのが「初天神(はつてんじん)」。初天神に出かけたお父さんと子どもの愛すべきとんちんかんぶりが、読む人たちをグイグイひきつけます。川端誠さんの落語絵本シリーズの1冊『はつてんじん』。『じゅげむ』『めぐろのさんま』ほかラインナップも豊富なシリーズで、調子よく読める文章、ほどよいテンポで展開されるお話は、期待を裏切らず、大人も子どももアハハと笑わせてくれます。小学生への読み聞かせでも楽しめます。
口の悪いお父さん、やんちゃ息子と初天神へ
初天神に出かけようとするお父さん、そして、息子の金坊も連れてっておくれと頼むお母さん。どうやら2人は金坊のやんちゃぶりにうんざりしているようで、2人で押し付け合っているのです。「おれはあいつのおやだけど、あいつはきらいだよ」なんて言い放つお父さん。あれあれ、ちょっとひどすぎるのでは!? そして「あんなにぎょうぎがわるいやつはいないよ。まったく、おやじのかおが、みたいくらいだ」と言うと、すかさずお母さんが「それはあんたじゃないか」とツッコミを入れます。そんな風に2人で騒いでいるものだから、金坊に気づかれて連れていく展開に。お母さんに向かって「おまえが、ぐずぐずいうから、みつかった」と文句を言うところは、とことん大人げないお父さんです。しかし、お父さんの気持ちが少しわかる部分も。子どもは親と一緒に出かければ、あれやこれや買ってほしくなるもの。お店がズラリと並ぶ場所にはあまり連れていきたくないものですよね。そして相手はやんちゃで揚げ足取りの名人の金坊。わたがしも、かるめやきも、たこやきも、そのほかの食べ物も、みんな「どくだからダメ」というお父さんをうまく誘導して、凧を買ってもらうことに成功しました。
何だかいいな、こんな父子関係
口が悪いお父さんと、そんなことにはびくともしない金坊。本当に似た者同士で、ふとした場面に父子の温かい交流が垣間見えるのです。お参りの場面や、凧上げで人にぶつかってしまった場面などは、なんだかんだ言ってやっぱりお互いのことが気にかかるんだなあと、心が温まります。そしてずっと金坊のペースに巻き込まれていたお父さんですが、やっぱりそれで終わるはずがありません。見事に立場が逆転し、最後には金坊が「とうちゃんなんか、つれてくるんじゃなかった」とぼやくオチ。でも、金坊は、こんなお父さんであることをもちろんよく知りながら、やっぱりお父さんが大好きなんですね。さあ、お父さんは何をしでかしたのでしょうね。
巻末には作者の川端さんの「裏表紙は、もうこれしかないだろうという絵を描きました」という言葉が紹介されています。そう、2人の関係を表現しつくした絵です。バタバタの2人の物語を読んで大笑いした後、裏表紙で余韻を味わってくださいね。