判例対策3 審査基準を覚える
次に大切なのは、裁判所の示した審査基準です。テキストで太字になっていたり、丸数字で箇条書きになっていたりする判決の一部分です。例えば、思想及び良心の自由の謝罪広告強制事件(昭和31年7月4日)は 「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものであるなら」憲法第19条に違反しないとの基準を示しました。どのテキストもこの審査基準の記載があるはずです。
審査基準の出題方法は多種多様ですが、基本と言える二つをご紹介します。
まず、審査基準について、原則と例外、場合分けがなされている場合、その関係を無効にするようなひっかけをしてきます。謝罪広告強制事件なら、「謝罪広告の強制は程度を問わず合憲である」といったような出題です。
対処法としては、審査基準をただ読んで覚えようとするのではなく、原則と例外、場合分けがあるかどうかを確認しながら読むようにしてください。それだけで審査基準が覚えやすくなります。
つぎに、審査基準が複数の要件に分けられる場合、問題文で一部の要件を欠落させてひっかけてきます。
例えば、京都府学連事件(昭和44年12月24日)では、最高裁は肖像権が制限される場合として、「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法を持って行われるときである」という審査基準を示しました。これもどのテキストにも掲載されている著名な判例です。
この審査基準についてテキストは、
1、現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないこと
2、証拠保全の必要性及び緊急性があること
3、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法を持って行われたこと
と言ったように、覚えやすくするため、分けて表記しているのが一般的です。このような審査基準は、本試験では「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があれば足りる」などと出題して、3番目の要件を欠落させてひっかけてきます。
対処法は、審査基準の意味をあまり考えずに丸暗記するか、なぜそのような要件が必要なのかを理解して暗記するしかありません。もちろん理解して覚えるのが一番なのですが、分量が多いのですべての判例について行うのは無理です。丸暗記とそうでない暗記の振り分けは講師の指示に従ってください。
人権の条文対策は、条文そのものよりも解釈が中心
次回取り扱いますが、統治の条文は、純粋に条文の知識が問われることが多いのが特徴です。ですから、いかに条文をまとめられるか、暗記できるかがポイントになります。一方で、人権の条文問題は、条文そのものではなく、条文解釈が出題される傾向があります(「~も含まれる」とテキストに書かれている条文知識のことです)。例えば、法の下の平等(14条)は、条文上は、法適用の平等を規定していますが、解釈により「法内容の平等」も含むとされます。このように、条文の言葉の意味を拡大して解釈している箇所をしっかりと押さえるようにしてください。
このパターンの近年の出題例として、平成19年問題7の選択肢2があります。
前提の知識として、適正手続きの保障(31条)は、刑罰権の民主的コントロールを定めた規定ですが、刑事手続きの法定だけでなく、解釈により、「手続きの適正」、「実体の法定(罪刑法定主義)」、「実体の適正」も含まれるとされます。
平成19年問題7の選択肢2は、憲法31条について、「日本国憲法は別に罪刑法定主義の条文をもっているので、本条においては、戦前にないがしろにされた刑事手続について、これを法律で定めることが要請されている。」と出題されました。
余分な文章がついていてわかりにくいのですが、要は罪刑法定主義は何条で規定されているかということです。そして、憲法31条の条文をただ暗記していても答えは出せません。解釈により罪刑法定主義が31条に含まれるという知識があって初めて誤りという答えが出せます。これは明らかに「~も含まれる」という知識を前提とした出題です。
このような拡大解釈を全部列挙することはスペース上不可能ですが、テキストには必ず記載があります。目印としては「~も含む」と記されているところです。条文ごとに拡大解釈を追っていくだけでも、人権の条文問題対策としては有効です。是非やってください。