『相棒』が刑事ドラマの人気トップランナーに居続ける理由は?
連続ドラマ『相棒』がスタートしたのが2002年、ここまで存在感のあるドラマに成長すると誰が想像したでしょう。刑事ドラマのひとつのスタイルを確立した『相棒』が今もなお人気ドラマである理由は、こんなところにあるようです。<目次:『相棒』が愛される理由>
- 1:個性あふれる脚本家たちの競演
- 2:輝きを失わない過去の作品
- 3:無名の俳優から大物俳優まで同じ土俵で演じる
- 4:成熟した視聴者との信頼関係
- 5:フツーだけど味があるレギュラー陣
- 6:進化し強化される杉下右京“らしさ”
- 7:信念ある相棒たち
- シンプルな思考回路で複雑な事件の絡まりを解く 亀山薫(寺脇康文)
- 正義に苦悩し、繊細に大胆に歩み寄る 神戸尊(及川光博)
- 若さという未完成が事件への先入観を生まない 甲斐亨(成宮寛貴)
- フラットで自由な精神が事件に光をあてる 冠城亘(反町隆史)
1:個性あふれる脚本家たちの競演
櫻井武晴、輿水泰弘、戸田山雅司、古沢良太、太田愛、真野勝成……相棒を描いてきたのは、実力ある脚本家たち。組織の内部犯行を洗い出す社会派物語だったり、詩人や映画監督、作家など登場人物の芸術観がそのまま作品の風味となったり、閉鎖的な空間での家族のすれ違いに杉下右京(水谷豊)がそっと風を通してみたり、どの作品も鮮明に記憶に残っています。複数の脚本家の視点がその世界を深化させ、歴史を築いてきた『相棒』。いくつもの物語のなかに、誰もが価値ある1作を見つけることができるのです。
2:輝きを失わない過去の作品
再放送が多い『相棒』。機密漏洩、裁判官制度、死刑制度、ウイルステロ、劇場型犯罪、その時代に果敢に挑んだ作品に、改めて心を突き動かされることに気づきます。「この作品は……」と語りたくなる作品が多いことも、相棒ならではの強みです。3:無名の俳優から大物俳優まで同じ土俵で演じる
大杉蓮、蟹江敬三、大滝秀治、夏八木勲、岩下志麻、岸恵子、長山藍子、中村嘉葎雄など、銀幕の大スターや名脇役の大御所と言われる俳優たちがゲストとして登場し、奥深い演技で魅せてくれるのも『相棒』の醍醐味。一方、テレビドラマでは、それほど見たことのない、言わば無名の俳優の新鮮な演技に出合えるのも『相棒』。貧困ジャーナリズム大賞を受賞した”ボーダーライン”(season 9)では、派手さはないものの山本浩司の演技に空虚な現実を痛感、絶望を見る彼の言葉に胸が締め付けられました。
視聴者にとっては、知名度は高くないものの実力ある俳優を知ることになる。往年のスターの見たことのない演技に驚く。そんな副産物を生むことも『相棒』の魅力です。
4:成熟した視聴者との信頼関係
スター俳優がゲスト出演しないことが、視聴を敬遠させる要因にならない。それを可能にしているのは、『相棒』と視聴者の間に信頼関係が成立しているから。2013年、『相棒』公式ホームページにて、全ストーリーを対象に人気投票が行われましたが、それ以前に、個人でランキングをつくるファンはいましたし、ファン同士の意見や情報交換も積極的、相棒ファンはとても熱心です。
しかし彼らは手放しでほめることはありません。残念だった点もしっかり発信ています。そんなファンの存在が相棒を支えています。
5:フツーだけど味があるレギュラー陣
捜査一課の伊丹憲一(川原和久)と芹沢慶二(山中崇史)、組織犯罪対策五課の角田六郎(山西惇)、刑事部参事官の中園照生(小野了)、刑事部長の中村完爾(片桐竜次)など、小市民的な姿にホッとし、「あぁ、まただ」と笑いがこぼれる、ユーモラスで人間的な彼らの存在も相棒の人気の秘密。しかし、巨悪を相手にするときは一変、勇気を持って正義を貫く姿勢には感動があります。6:進化し強化される杉下右京らしさ
season16ともなれば「飽きた」「マンネリだ」の声も聞こえてきそうですが、杉下右京をじっくり観察すると、まだまだ新しい右京さんが存在することに気づきます。映画『相棒 -劇場版IV-』劇中シーンより (画像はガイド記事「水谷豊は僕のヒーロー、北村一輝『相棒』の役作り」より)
seasonを重ねるごとに杉下右京が”らしさ”を増していると言えます。相手の話をどんな風に聞くのか?事件に関わる子どもたちにどんな姿勢で接するのか?杉下右京は人間的な魅力を広げています。
それを支えるのが、杉下右京を演じる水谷豊の演技力。声の大きさ、質、高さ、スピード、机上に置かれた手の動きなど、そんな細部にも、杉下右京の魂が見えるのです。
(1)杉下右京は完璧ではない
杉下右京は完全無欠という印象ですが、実は自分に不足しているところ、自分が得意としていないところを謙虚に心得ています。だからこそ「相棒」を必要とするのです。また、誰が何に長けているか、どんな強みを持っているかを熟知している杉下右京は事件解決のため、捜査1課、組織犯罪第5課、鑑識課などに積極的に依頼します。一人では何もできないことがわかっているからです
(2)相手が何歳でも紳士的な姿勢を貫く
season10の”ピエロ”で誘拐された島村加奈(大橋のぞみ)に対して、杉下右京は冷静かつ温かく公衆電話で位置確認する方法を説明しました。season9の”通報者”やseason11の”バレンタイン計画”でも、若い世代に対し丁寧な言葉でアプローチしています。そして、彼らに親近感を持って接することは、自分より歴代の相棒たちの方が長けていることを知っています。従って彼らに踏み込むことはしません。『相棒』では未成年にまつわるエピソードがいくつもあり、どれも名作です。杉下右京同様、未成年を一括りにせず、一人ひとりを繊細に大切に描こうとする姿勢が作品を高めていると言えま
す。
7:信念ある相棒たち
ぶれることのない杉下右京の存在は時にうとましいもの。そんな彼を支える”相棒”たちは、ドラマの生命線、歴代の相棒を振り返ってみましょう。シンプルな思考回路で複雑な事件の絡まりを解く亀山薫(寺脇康文)
熱血体育会系(元野球部)の印象が強いですが、常に自分ができること、自分がするべきことを考える冷静さを持ち合わせています。事件に関係し心に傷を負う人たちに寄り添うことができる人間性は誰からも愛されました。今も絶大な人気を誇る初代相棒・亀山薫(寺脇康文)(画像はAmazonより:http://amzn.asia/9x9E375)
■亀山薫の1本:サザンカの咲く頃(season 5)
ひとつの事件がいくつもの犯罪をあぶり出す。刑事ドラマではよくある展開ですが『相棒』の二転三転はさらに興味深いものでした。謎解きはもちろん、組織において暴走する正義感をありありと表現、組織の摩擦をコミカルに描いています。
官僚の犯罪を水面下で隠蔽する警察組織に反旗を翻す一手として、杉下右京、官房長 小野田 公顕(岸部一徳)とともに地方公務員である亀山薫が切り札となり一芝居打つシーンは何度見ても圧巻です。
正義に苦悩し、繊細に大胆に歩み寄る 神戸尊(及川光博)
杉下右京を観察する立場からスタートした神戸尊ですがが、杉下刑事の洞察力やすべてに精通する知識を知るほど、自身も意志も確立していきます。神戸尊の魅力は苦々しい表情で、嫌味の応酬に出るところ。しかし一見ドライな彼が実は非常に情に厚いことも視聴者は知っています。今後の特命係との関係に注目したい2代目相棒・神戸尊(及川光博) (画像はamazonより:http://amzn.asia/hClbIZb)
■神戸尊の1本:罪と罰 (season 10)
クローン人間の誕生をテーマに、宗教、倫理、政治、科学、様々な立場の物言いは事件を複雑にしていきます。謎解きはテンポよく進行しますが、誕生しようとするクローン人間をどうするかという答えのない問題に、杉下右京と神戸尊が対立するシーンは、二人の気持ちが痛いくらい理解でき 視聴者の判断も分かれるところです。
神の領域に踏み込んだ『相棒』の挑戦と神戸尊の揺るぎない信念は、視聴者に いい意味で大きな宿題を残したと言えるでしょう。
若さという未完成が事件への先入観を生まない甲斐亨(成宮寛貴)
1983年生まれのもっとも若い相棒は、未完成の部分が多いからこそ恐れることなく現場に飛び込み、事件にいち早く気づきます。妙なプライドがないこともフットワークの軽さを後押しし、純粋な気持ちで事件に向き合うところに好感が持てます。
直向きな情熱が印象的な最年少の3代目相棒・甲斐亨(成宮寛貴)(画像はAmazonより:http://amzn.asia/73acLhx)
■甲斐亨の1本:ビリーバー(season 12)
インターネットの発達は、世論の誘導や悪意の垂れ流しなど、いくつもの危うさを抱えています。安易に形成された思考が瞬く間に拡散され、実行力を有していく現代社会。その環境で育った甲斐亨が、それらにどう踏み込んでいくのか、興味深い作品となっています。
作品は過去への遡りも含め、現代社会に潜在するいくつもの現実をスピーディーにすくい上げることに成功しています。著しく関係が悪い父親 甲斐峯秋(石坂浩二)の真の姿から、逃げることなく直視を始めたことも大きな要素となっています。
フラットで自由な精神が事件に光をあてる冠城亘(反町隆史)
法務省のキャリアである彼が警視庁に出向するところから、2人の関係は始まります。今までの相棒と違い、時に挑戦的に、杉下右京を試すかのような行動で、視聴者を驚かせました。警察学校を経て警察官となり、キャリアを生かしたネットワークと独自の視点で事件に迫ります。クール&ユーモアのバランスで魅せる4代目相棒・冠城亘(反町隆史)(画像はAmazonより:http://amzn.asia/1p0ijuE)
■冠城亘の1本:ラストケース(season14)
前代未聞の警察学校内での発砲事件、読めない展開でありながら、常につきまとう「嫌な予感」と冒頭のスピード感が物語を高揚させます。官僚である冠城亘が警察官となる背景は興味深く、『相棒』の未来へとつながる貴重な作品です。
個人の思惑が優先される組織の人事を、知恵と交渉力、時に駆け引きで乗り切る冠城亘の引き出しと可能性は、これまでの相棒にはないものを感じます。杉下右京との関係が、不協和音なのか相乗効果なのか、そのスリリングは今も続きます。
【関連記事】