*2017年11月インタビュー(本頁)
*2014年11月インタビュー(2頁)
*『familia』観劇レポート(3頁)
岸祐二 70年東京生まれ。バスケットボールをきっかけに芸能界入りし、96年『激走戦隊カーレンジャー』に主演。03年『レ・ミゼラブル』でミュージカルデビューし、後年アンジョルラス、ジャベールを演じる。『ミス・サイゴン』(ジョン)『三銃士』(ポルトス)等にも出演。声優として『ストリートファイターズ シリーズ』、橋本さとし、石井一孝とのユニットMon STARSでも活躍している。(C)Marino Matsushima
ミュージカル俳優として吹っ切れた『familia』
――前回インタビューをさせていただいてから、はや3年。その間のご出演作をいくつか振り返ってみたいと思いますが、まずはヒロインを見守る軍人を演じた『familia』、いかがでしたか?「『familia』は舞台でメイン(の役どころ)を経験させていただけるのが有難かったし、ある意味、ミュージカル俳優として覚悟ができた作品でした。それまではどこか、自分が何者でもないというか、ミュージカル俳優と呼ばれることがちょっとはずかしい自分がいたけど、あの作品を経験することでそれが吹っ切れたといいますか、自分が持ってるものが一番生きる場はミュージカルなんだな、と改めて思えた作品でした。いい思い出が作れましたね」
――当時、“ラブシーンを演じたことが無い”とおっしゃっていましたが、その後は?
「(城田優さん演出の)『アップルツリー』はアダムとイブの話だったので、人類の最初の二人として“これって愛なの?”というような表現はありましたが、具体的なシーンは無かったですね。最新作の『In This House』が夫婦の物語なので、共感していただける愛の形が表現できたらとは思いますが……。よく考えると、やっぱり今までのところ、ラブシーンは無いです。
経験せずにこのままいく可能性も? ありますね(笑)。そろそろ、『愛の流刑地』的な、強烈な恋愛ものができたらいいなぁ。『レ・ミゼラブル』をやるまで自分でも無意識でしたが、ジャベールをやったことで、役の悲哀を“男の色気”として評価してくださる声も少なからずありまして、それを前面に押し出した役もやってみたいと思います」
『扉の向こう側』撮影:岸隆子
「エロチックに見えたそうですね(笑)。ジュリアンとしては全く無意識だったのですが。光夫君がやっていたリースを人間として愛していて、それが同性愛とは気づいていない。本能に突き動かされている、ととらえていただいて間違いではないかもしれません。そういう意味では自分の色気を発揮できたんだなと思いますし、もっともっとこういう役をやってみたいですね」
“稀有な出会い”だった『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』
――昨年、弟テオほかを演じた『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』もとても良かったです。『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』撮影:桜井隆幸
――お二人の関係性が、演技せずとも自然に滲み出て見えました。
「そうですね。芝居をしながらいろんなことをやらかしてる(さとし)兄さんをサポートするのが、楽しくてしょうがなかったです(笑)。段取りが違ってしまったり、モノが壊れたりしていったので、それをどうフォローするかというのが腕の見せ所でした(笑)。さとしさん演じるヴィンセントの台詞を聞きながら、ひそかに“あれが壊れたからいつ取り替えよう”とか、“ばみり(位置関係の目安として床に貼るテープ)の位置がずれちゃったからいつ直そう”、“照明から外れてるさとしさんにあそこでライトをあててあげなきゃ”とか、もう一人の自分が計算しているのがおかしかったです。
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』撮影:桜井隆幸
2回の挑戦でさらに深まった『レ・ミゼラブル』ジャベール役
――そして念願だった『レ・ミゼラブル』ジャベール役も実現されました。「ジャベールだけで特集を組んでいただきたいくらい話が長くなりますが(笑)、紆余曲折あってこの役をやらせていただけることになって、最初は無我夢中で作品に入り組みました。(何度か他の役で出演し)、『レ・ミゼラブル』という作品は知っているとはいっても、僕が前に出演していたのは現行演出とは異なります。初めてジャベールを演じた時には、見える景色が(思っていたものと)違っていたので、とまどい、さぐりながら、日々挑戦という感じで初演はやっていましたね。
『レ・ミゼラブル』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部
ジャベールという役は他の人とはほとんどからみが無く、会話をするのはジャン・バルジャンばかりなので、リアルに孤独を感じる役で、演じている僕もそれを追体験しているような気分になります。17年の再演では、細かいところで表現が変わりまして、より強く、アグレッシブにというか、ジャベールとしての熱情をもって取り組むことが出来たのが再演でしたね。絡みは少ないなりに、周りも少し見えてくるようになりました」
――ジャベールが執拗にジャン・バルジャンを追うその原動力は何だとお考えですか?
『レ・ミゼラブル』2015年公演より。写真提供:東宝演劇部
もちろん冒頭の仮出獄くらいまでは、ジャン・バルジャンは囚人の一人でしかなかったけれど、そのスタート地点から、何か気にかかるものはある。それが再会した時に、運命だったことに気づくんです」
――そしてジャベールとしては神との約束を遂行していくにも関わらず、裏切られてしまうという感覚でしょうか?
「ある程度お客様に委ねたいので、あまり細かく言葉にはしないほうがいいのだと思いますが、裏切られるというよりは、自分なりの正義を貫くために、ここではない、もう一つの世界に行くのだ、という意識なのでしょうね。彼の中ではおそらく、自殺しているという自覚も無いでしょう。それが彼にとって自分の心の平穏だった。覚悟をもって自決するより、このほうが人間としては切ないなと思います」
――普通の人間は生きていれば複数のチャンネルを持っていて、何かがうまくいかなくても別の何かに気をとられるものですが、ジャベールにはジャン・バルジャン追跡が全てだったのですね。
「彼は自分の生まれを呪っていて、それを覆い隠すことでしか生きるすべがありませんでした。この世のすべてが悪と思っていたわけではなく、この世で罪を犯していない数少ない人間を守るために自分は生かされている、そういう使命を持っていると考えていたのだと思います。やはりジャン・バルジャンとジャベールは合わせ鏡のような存在なんですよね。僕は以前、稽古でバルジャンの代役をやったこともありますので、本当にそう感じますね」
――“合わせ鏡”を確認する意味でも、いつか岸さんのバルジャンも拝見したいです。
「これまでいろいろなミュージカルを観てきましたが、『レ・ミゼラブル』のバルジャンはその中でも一番難しい役の一つだと思います。だからこそ、チャレンジする機会があればやってみたいと思いますね。バルジャンとジャベール、両方やれるような役者でありたいと思います」
表現者としての“これから”
――現時点では、どんな表現者を目指していらっしゃいますか?「この年になって、キャリアも有難いことに積ませていただくなかで仲間が増えてきたこともあって、新しいミュージカルを創る力をつけ、それが出来る役者になっていけたらなと思っています。もちろん既存の作品で(出演を)望まれるだけの力も持っていきたいし、そういう努力も続けていきますが、出会った人たちと新しいものを作っていけたらいいですよね」
――橋本さとしさん、石井一孝さんとのユニットMon STARSで、とか?
『Mon STARS』コンサートより。写真提供:CUBE
――近年はMon STARSの宣伝ビジュアルや『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』のプログラムで、イラストや飾り文字の才能も発揮していらっしゃいます。
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』のために岸祐二さんが描いたイラスト
あと、ジャンルは異なりますが、僕はもともとバスケットをやっていて、最近はバスケットのBリーグにすごく興味があります。ゆくゆくは、バスケットを盛り上げるような活動もできれば嬉しいですね。まだまだ多方面で頑張りますよ」
*2018年4月出演の『In This House』関連記事はこちら→2017年11~12月の注目!ミュージカル
*次頁で2014年の岸さんへのインタビューを掲載!