糖尿病/糖尿病対策の生活・運動療法

糖尿病患者にとってのアルコール、果たして敵か味方か

今、食卓でのグラス一杯のワインやビールが2型糖尿病患者にも健康の恵みを与えてくれるという研究が続いています。適量のアルコールが2型糖尿病者の心臓病や脳卒中のリスクを軽減するようなのです。

執筆者:河合 勝幸

女性のアルコールの適量は、一日グラス一杯のビール程度です

女性のアルコールの適量は、一日グラス一杯のビール程度です

英語のtoast(トースト、乾盃)だってフランス語の乾盃だって、そもそも乾盃は相手の健康を祝福して飲みほすものです。

そして今、食卓でのグラス一杯のワインやビールが糖尿病患者にも健康の恵みを与えてくれるという研究が続いています。適量のアルコールが2型糖尿病者の心臓病や脳卒中のリスクを軽減するようなのです。更に、適量のアルコールが健常者の2型糖尿病になるリスクを減らす可能性すら言及されています。ただ、残念ながら1型糖尿病へのアルコールの恩恵のデータは目にしたことがありません。アルコールとインスリンは低血糖のリスクを高めるからです。

私達が独りで自分の健康に乾盃する前に、糖尿病患者にとってのアルコールの恩恵とリスクを確かめておきましょう。

適量のアルコールとは?

適量のアルコールとは、健常者も糖尿病患者も同じガイドラインです。欧米では、標準的なビール缶を男性では2缶/日、女性では1缶/日のアルコール量が適量とされていますし、日本の糖尿病治療の現場でも一日のアルコール分で25g以下を指導していますから、同じようなものです。

一般に12オンス(350ml)ビール缶一本相当を標準としていますから、国によって若干の相違があって、米国では標準ドリンク1単位のアルコールは15g、カナダでは13.6g換算です。これはワインでは5オンスのグラス一杯と同じで、蒸留酒では1.5オンスが相当します。これを成人男性では一日2単位あるいはそれ以下、女性では1単位あるいはそれ以下を摂取するのを一般に「適量」と見なしています。

「酒は百薬の長」と言われているように、適量のアルコールは加齢による殆んどすべての病気のリスクを、全く飲まない人や飲み過ぎる人に比べて軽減するというデータが大規模な試験で見られるようです。どのような病気かというと、心臓の冠動脈疾患や脳卒中、認知症、2型糖尿病、骨粗鬆症などが挙げられています。

適量のアルコールで2型糖尿病予防効果とはうれしい話ですが、これらの試験はアルコールの効果を調べる「前向き研究」ではなく、各病気と生活習慣の関連を調べた「後向き研究」なので原因と結果が定かではありません。つまり、自制の効いた生活習慣である適量のアルコール摂取は、U字型グラフの一番低いところに位置するので、何らかの理由で全く飲まない人や飲み過ぎる人よりもリスクが小さくなりがちなのです。

同様に、長期間の試験で適量のアルコールを毎日たしなむ人は2型糖尿病のリスクが低くなるという結果がでたことがあります。しかし、これもアルコールの査定やフォローした期間、年齢、家族歴、BMI、糖尿病診断基準、性別などの異因子が調整されてないので、アルコールを適量飲むことが2型糖尿病予防になるとは言い切れません。いかなる理由にせよ、2型になるのは全く飲まない人か飲み過ぎる人のほうがリスクが高かったということです。全く飲まない人には肥満やドクターストップの人も含まれているでしょうから、何とも言えませんが、研究者の興味を惹き付けているテーマではあります。

糖尿病の大規模試験ADVANCEではこんなご利益が

最近の話題はADVANCE Trialで得られた適量のアルコールが糖尿病患者に及ぼすご利益のことです。これは基本的にはHbA1C 6.5%を目指した研究で、アジアを含む20ヵ国から11,000人以上の2型糖尿病のハイリスクの患者が参加した大規模な試験です。治療法や生活習慣などのデータが集められましたが、アルコールに対する質問も含まれていました。

アジア人では10%以下でしたが、東欧人では51%と幅のある多くの2型糖尿病の飲酒習慣者が含まれていました。その試験で得られた所見の1つに、適量のアルコール摂取が糖尿病網膜症や腎症の発生率を下げる関連が見られたというものがあったのです。日常的に食事の時に適量のアルコール摂取は目や腎臓の合併症を軽減するとのこと。ただ、他の糖尿病の大規模試験ではアルコールが細小血管合併症に及ぼす影響を調べたものは殆んどないので、まだ科学的根拠とまではいかないようです。

ADVANCEのデータでは適量のアルコールが心臓発作、脳卒中、若死に等の大血管合併症のリスクを下げることは証明されませんでした。むしろ、過度の飲酒がこれらのリスクを高めることが示されているのです。

アルコールと血糖値

米国糖尿病協会(ADA)が勧告する食事療法の中で、糖尿病とアルコールの部分を担当したワシントン州立大学のJoshua Neumiller薬学博士は、「適量のアルコールは血糖コントロールをある程度改善するようだ」と言っています。同博士が注目しているのは米国の代表的な民間医療保険団体であるカイザー・パーマネンテのデータです。

カイザー・パーマネンテのぼう大な健康記録では、1型、2型を問わず、適量のアルコールを摂取する糖尿病患者のHbA1Cが全く飲酒をしない患者や過度の飲酒者よりも明らかに低いのです。だからと言って、これも糖尿病患者は食事の時に一杯やろうという勧めではありません。

アルコールは糖質を含んだ物も多いので、飲んだ後の高血糖やその後の24時間も持続する低血糖のリスクという相反する影響を糖尿病患者に与えます。
そのため、

  1. アルコールは炭水化物を含む食物と一緒に飲む
  2. 飲む前、飲んだ後の自己血糖測定を忘れずに行って低血糖予防をすることが大切

肝臓は「毒物」のアルコール分解を再優先するので、低血糖の際に肝臓からブドウ糖を放出させる各ホルモンの正常な働きを得られない事があるのです。

アルコールのヘルシー効果は確かにあると思いますが、前向き研究で科学的に実証されたものではありません。担当医に相談することを忘れないように!

飲まない人が飲み始める必要はありませんが、飲む人には「適量を楽しみなさい」とお伝えしましょう。実は私も時々「楽しみ過ぎる」患者なのです。

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