古美門研介の信念が特別
<古美門研介は泣かない>主張を強化するための戦法として、古美門研介は泣いたりしません。論述中に感極まって泣くこともありません。感情は裁判から排除するべきことだからです。
確かに、加賀蘭丸(田口淳之介)による潜入捜査やメディア操作はありますが、実はいたって正々堂々の論戦を繰り広げているのです。古美門研介の弁護士としてのプライドではないでしょうか。論じるのが弁護士。その根本が揺らぐことはありません。
<古美門研介はおごらない>
彼は自身を人格者と位置付けていません。自らを天才と言い、勝敗に執拗にこだわる姿勢を見せています。しかし、その論述内容から、おごりのなさを感じ取れます。欲望、嫉妬、自暴自棄、傲慢で身勝手な人間同士の争いをどうするのか。すべての人間を人格者に導くところに解決の術はないのです。
「あいまいにすることに何の意味がある。きれいな言葉を並べて許しあったところで、現実は何一つ変わらないんだよ。我々にできることは徹底的にぶつかり合わせ、人生にけりをつけさせてやることだけだ」(第2期 第4話 『お隣り付き合いは蜜の味!? 嫉妬渦巻く隣人裁判!!』) という言葉に、弁護士としての誠意を感じます。
古沢良太の脚本が特別
『視聴率はイケてないけど、実はイカした必見ドラマ3選』でも書かせていただいた脚本家古沢良太ですが、限りない言葉のストックに、ものを書く人間としてはいつも驚かされます。表に出ることを得意としない脚本家の言葉は実に骨太です。不確かな民意、社会におけるつるし上げの風潮、文明論、幸福論、現代社会におけるキーワードがNHKの『クローズアップ現代』以上にザクザク取り上げられ、そこにバサバサ切り込んでいきます。
「幸福度が高いのは、不幸であることを自覚してないか、不幸であると口に出せない統制国家のどちらかだ」(第2期、第8話『世界に誇る自然遺産を守れ!! 住民訴訟驚きの真実』より)は、世界遺産をめぐって村民たちが対立するなかで古美門研介が放った台詞です。幸福度については指数が設けられ、政府や大学で研究対象となっています。しかし、そんな幸福を取り上げるだけでも、なかなかの硬骨なのに、曖昧なものを数値化する不可解さまでも描く。古沢良太という人間の視点も分析もそしてその先を見る力も、何もかもが特別だと痛感します。
裁判所でビシッと語られるわけではない台詞も実に綿密に精査され、毒や風刺をまといながら、曖昧な社会をあぶり出していく。それが『リーガルハイ』における古沢良太の役割の1つと言えるでしょう。
法廷ドラマ『リーガルハイ』はコメディであり社会派ドラマです。今何が求められているかを意識し、ドラマにおける既存の方法を教科書とせず視聴者ニーズに応えようとしています。
それができる脚本家古沢良太と 演じられる俳優堺雅人の出会いは、これからも数々の奇跡を見せてくれるはすです。