視聴者は“視聴率”という数字に振り回されがちです。視聴率が低いという情報だけを理由に、観たわけでもないのに「つまらない」と決めつけてしまうこともあります。確かに視聴率は一つの目安になりますが、それが作品のすべてではありません。

“低視聴率のドラマはつまらない”という思い込みで、良作を見逃していたらもったいない。そこで今回は、視聴率はイケていなかったけど、 内容はとてもイケているドラマをご紹介しましょう。 


その生き方が眩しすぎるぜ 『私立探偵 濱マイク』

◇平均視聴率6.5% (ビデオリサーチ社による関東地区のもの)
◇主演永瀬正敏 2002年 7月~9月 月曜22:00 日本テレビ系列にて放送(制作・読売テレビ)
◇第52回ベルリン国際映画祭出品作品

映画3作(1993年~1996年脚本・監督林海象)が公開された後、2002年にドラマとして展開された本作。タイトルはもちろん、ハードボイルド小説の『マイク・ハマー』からいただいており、全編にパロディやオマージュが数多く散りばめられています。

『私立探偵濱マイク』を特徴づけているのは突き抜けたカッコよさ。映像、ファッション、小道具、音楽、そのすべてが極めて洗練されているのです。このカッコよさを支えているものとはなんなのでしょうか。

■ノスタルジックな脚本と演出
昨今のテレビドラマでは珍しいフィルム撮影によって描かれる全12話。これだけでもかなりのこだわりが伺えますが、それに加えて本作では、各話ごとに著名クリエイターが脚本/演出として参加しているのです。

たとえば、第4話「サクラサクヒ」は行定勲(監督・脚本『世界の中心で愛を叫ぶ』や監督・『北の零年』で知られる)、第9話「ミスター・ニッポン~21世紀の男」は中島哲也(『告白』『渇き。』の監督・脚本で知られる) 、最終話「ビターズエンド」は利重剛(『さよならドビュッシー』の監督・脚本、俳優として『半沢直樹』ではタミヤ電気の経理課課長役で知られる)といった具合に、第一線で活躍する方々が参加しています。

彼らのディープな視点を通した映像と色あせた雰囲気で、濱マイクの生き方はさらにクールに描かれます。

■ファッションと音楽
濱マイクの着こなしはかなりの上級者向け。もしマネをしても、残念ながら野暮ったくなりそうです。柄×柄、ネイルに指輪のゴテゴテ感や、愛車ナッシュメトロポリタン 2代目トヨタクラウンの持つ時代感といった不良っぽさも魅力ですが、何より永瀬正敏の持つ空気が一番のカッコいい。突出しすぎない、際立ち過ぎない、完璧でなく欠けたままの人間臭さが、カッコよくて愛おしいのです。

高層ビルの上、虫も来ない近代的な空間で暮らすスタイルとは対極の風景、ネオン、古びた路地裏、青くない空、そしてちょっとすかして尖がった癖のある住人たちを、探偵は愛しているのです。

主題歌はEGO-WRAPPIN‘の『くちばしにチェリー』、ドラマとここまでマッチングする作品は多くありません。ホーンセッションにウッドベース、ほとばしる情熱と甘くない声の質感、ビート感、人生の哀愁と切なさを拒否しないセンスに脱帽です。