マーケットインが生んだウォークマン
一方のマーケットインの考え方は、高度成長に陰りが見えはじめた80年前後から、作れば売れる時代の終りと共に、各企業の「いかにして選ばれ売れる商品が作るか」という発想への転換として登場してきます。その代表例が80年代に大ヒットし、若者のライフスタイルまでも変えたソニーのウォークマンでしょう。ウォークマンはカセットテープレコーダーを可能な限り小型軽量化することで、音楽を街中で歩きながら聞けるという潜在的なライフスタイル・ニーズを引き出しました。まさにマーケットイン思想により生み出された製品です。
なぜならウォークマンは最新技術先行で作られた製品ではなく、技術的に高度な録音機能を落とすことで軽量小型化を実現し、利用者ニーズを先取りしたものだったからです。発売当初ライバル各社は、「録音機能がない機能的に陳腐なテープレコーダーなど売れるはずがない」と揶揄していましたが、とりわけ若者たちの反応はそれとは逆のものでした。これは、ソニーの消費者ニーズ発掘力の素晴らしさを物語る伝説のマーケットイン製品であると言えるでしょう。
ウォークマンは携帯音楽プレイヤーという新たな製品分野を開拓し、ソニーはこの大ヒットによりマーケットイン型マネジメント企業の名を欲しいままにします。しかし、やがて時代の移り変わりと共にその座は他社に奪われることになります。アップルコンピュータによるiPhoneの登場です。
iPhoneは21世紀型マーケットインの好事例
スマホの登場は21世紀型マーケットインの産物
究極のマーケットイン製品であるiPhoneの登場を機として、ソニーはじめ国内家電メーカー各社は苦境を強いられることになりました。市場動向から端的に分かることは、家電各社がその後仕掛けた4Kテレビやハイレゾオーディオ対応など技術先行型の商品での巻き返し戦略が、消費者を捉えきれていないということです。
言ってみればこれらは皆、より綺麗な映像や音の再現を目的とした最新技術先行のプロダクトアウト型製品です。アップルの消費者市場における勝因は、ウォークマン時代のソニーに憧れ手本にしたマーケットイン思想のマネジメントによる製品開発にあったと、亡きスティーブ・ジョブズ氏は語っています。日本家電復活への道筋は、先端の高度な技術を駆使しながらもいかにマーケットイン・マネジメントへの回帰を果たしていくか、そんな21世紀型の企業姿勢の確立が鍵を握っているように思えます。