絵本

寒さにブル怖さにブルブルの冬物語『おおさむこさむ』

「ゆきのひは ゆきぼうずが でるぞえ」 まるで、名探偵・金田一耕助の小説のように怪しげな一文で始まるお話は、愛らしい登場人物の姿とはうらはらに、張りめぐらされた伏線に怖さと緊張感が高まっていく異色の冬物語です。

執筆者:大橋 悦子

ゆきのふるひは ゆきぼうずが でるぞえ?!

可愛らしい雪だるまが描かれた表紙をめくると、いきなり目に飛び込んでくるこの一文。「ゆきのひは ゆきぼうずが でるぞえ」って、まさか名探偵・金田一耕助の世界ではあるまいし一体どうしたことでしょう? 愛らしいきつねのきっこたちの姿とはうらはらに、張りめぐらされた伏線に怖さと緊張感が高まっていく異色の冬物語『おおさむこさむ』をご紹介します。

冬には冬の冒険物語『おおさむこさむ』

『おおさむこさむ』の表紙画像

元気いっぱいに遊ぶきっこたちの新しい友だちとは……

おおおばあちゃんから新しいマントを作ってもらったきつねのきっこちゃん。仲良しのいたちのちいとにいも、お揃いのマントを作ってもらって大喜びです。外は雪模様ですが、きっこたちは嬉しくてそり遊びに出かけていきます。

ゆきぼうずが出ることを心配したおおおばあちゃんは、こどもたちに温かな飲み物を持たせ、「ゆきぼうずに出会ったら、決して寒いと言ってはいけないよ。」と注意しました。ゆきぼうずの前で寒いと言ったら最後、コチコチに凍らされてしまうのです。

元気一杯外へ飛び出したきっこたちの前に、小さな雪だるまが2つ出てきました。滑ってはのぼり、滑ってはのぼり、仲良くそり遊びをするきっこたち。ところが、雪だるまがきっこたちにかき氷をご馳走してくれるあたりから、お話にも画面にも緊張感が漂い始めます。

そして、ついに本性を現す雪だるまたち。彼らこそ、ゆきぼうずだったのです。友だちのような顔をして近づいてきた彼らが、突如魔物の顔を見せる恐ろしさ! ほのぼの温かなムードが一変し、お話はいきなりハラハラドキドキ、スリル満点の冒険物語に変身します。

ここで読者は、これまでのお話の中に散りばめられた様々な伏線や重要なアイテムに気付かされるでしょう。何気ないひと言や小道具が、絶体絶命のピンチに陥ったきっこにヒントを与え、彼女の機転と活躍でゆきぼうずから逃げだすことができました。1つとして無駄のない伏線とそれを活かしたストーリーの面白さは、本当にお見事です。

さらに、ハッピーエンドの物語を読み終わっても、まだまだお楽しみが残っていますよ。裏表紙をよく見てください。そこに描かれたちいとにいのマントの柄が、表表紙のそれと変わっています。お話を読み始める前に「あれ、変だなあ、どうして?」と思ったその疑問も、絵本の中に明快な答えが用意され、「ああ、そういうことだったのか……」と納得できます。

子ども向けのお話だから……などと手を抜かない作者の心意気が感じられるストーリー。こんな絵本を読んでもらった子どもたちは、物語を読む楽しさを忘れられなくなるのではないでしょうか。


【書籍DATA】
こいでやすこ:作
価格:964円
出版社:福音館書店
推奨年齢:4歳くらいから
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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