ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.19 中川晃教、表現者の矜持(4ページ目)

2002年、『モーツァルト!』のタイトルロールで、衝撃的なミュージカル・デビューを飾った中川晃教さん。その後も数多くの舞台で活躍を続ける彼が、最新ラブコメ・ミュージカル『ファースト・デート』では、「草食系男子」役に挑戦中です。作品を客観的に捉えたトークに、ちらりと覗く、彼自身の恋愛観とは……? お見逃しなく!*観劇レポートを掲載しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

いつか“ミュージカルを書く”日のために

『モーツァルト!』写真提供:東宝演劇部

『モーツァルト!』写真提供:東宝演劇部

――もともとミュージシャンだった中川さんが『モーツァルト!』でミュージカル・デビューされたのはなぜだったのでしょうか?

「ある日、演出の小池修一郎先生からモーツァルト役を探しているということで、問い合わせがあったんです。ぜひ僕の生の歌が聴きたいということで、ライブのリハーサルスタジオに音楽監督、プロデューサーといらっしゃいました。ひととおりリハーサルを聴かれて最後に“すみません、オリジナルでなく誰かの歌を歌っていただけませんか”というので、ぱっと思いついたホイットニー・ヒューストンの“I will always love you”を歌ったら、後日、モーツァルト役のオファーをいただきました。

音楽でデビューしたばかりの時期だったので、周囲からは猛反対を受けました。レコードメーカーからは“リリース計画は決まっているので、来年のスケジュールを(舞台の為に)そんなに長期間入れられたら困る”と言われました。でも、僕は自分自身の可能性を広げていける一つのチャンスだと思ったのと、本田美奈子さんが主演された『ミス・サイゴン』を小学6年の時に観て“ミュージカルってすごいな”と思って以来、いつかミュージカルを“創る”ということを考えていたんです。ミュージカルはアルバムを作る作業とどこか似ている。物語を歌だけで表現し、見せてゆくという素晴らしさを僕も表現できたらいいなと思っていた記憶があったので、キャストとスタッフという立場の違いはあっても、ミュージカル界に縁が出来ることはチャンスだと思えました。周りの反応を押し切って、事務所もついに“うーん、(そんなに固い決意なら)やろう”ということになって、それが結果として僕自身の可能性を広げていくきっかけになりました。  
『モーツァルト!』写真提供:東宝演劇部

『モーツァルト!』写真提供:東宝演劇部

演技は全く初めてでしたが、とまどいや違和感といったものはあまり抱いた記憶がありません。一つだけ、稽古で山口祐一郎さん演じる大司教と対立するシーンで、大司教がステージ奥にある高台に立っているのに、(演劇のお約束で)前方、つまり客席に向かって反論してくださいと言われた時に“でも大司教は後ろにいるのに?”と思った記憶があるくらいです。とにかく無我夢中で、この台詞をどう言おうといったことより、モーツァルトの感情をどう演じ切ればいいかと思ってやっていました。それがうまく、小池先生はもちろん市村(正親)さんや山口さん、そして同じ役を演じていた井上芳雄さんの導きで、100パーセント、120パーセント生き切ることに繋がっていったのでしょうね。

『モーツァルト!』写真提供:東宝演劇

『モーツァルト!』写真提供:東宝演劇

むしろその後のほうが、ミュージカルというものに対して違和感を感じたりすることがありました。“なんでここでいきなり歌いだすんだろう”とか(笑)。でもブロードウェイとかウェストエンドでいろいろな作品を観るうち、ミュージカルというものの形式や変化が分かってきたし、ストレートプレイを経験することによって、まったく違う発見もありました。その後でまたミュージカルをやると、演じるだけではなく歌い、踊りもするミュージカルって非常に奥深いものに感じられるんですね。年々、その思いは強くなってきています」

――中川さんは非常に多くの作品に精力的に出演されていますが、もしかして今は、今後のミュージカル創作という“アウトプット”のための“インプット”をされているのかな?と想像します。どんな作品を作りたいとお考えですか?

「そうですね、僕の中には“アジア”というテーマがあります。僕は台湾でもデビューしていて、(海外での活動の中で)台湾はもちろん韓国、中国、シンガポールを含め、アジアの国々は芸能の世界において、身近に感じますよね。でも僕の求めているアジアとの距離感というのは、単なる身近さではないと思うんです。この前、ある仕事で韓国の俳優さんと話していた時に、彼は自分にないものを持っていて、それが間合いを含めた芝居に出ていました。そういう、尊敬できる、尊重できると思ったものが融合してゆくのが、僕の求めている“アジア”なのだろうなと感じています。

僕がオリジナル(ミュージカル)を作る時までに、どんな仲間たちができていて、その出会いがまたどう作品につながっていくのか。そんな期待もあって、おっしゃるとおり、いろんな作品、新しい現場で新しい出会いを繰り返しています。“アジアの中の日本”という意識の中で、芸能がより何かのためになるような、世界に通用するものになったら、その時に作品が生まれるんだろうな……という気持ちで、今は勉強しているところです」

*****
筆者にとって“謎”だった、「売れっ子」というだけでは説明のつかない、時には年間10本以上にも及ぶ中川さんの、精力的な舞台出演。その理由が今回のお話で明確なものとなり、筆者は中川さんの「本気度」を感じました。多くの出会いの中で刺激を受け、人脈を広げながら、ご自身が本当に目指しているものをクリアにしてゆく。その先にある「創作」が、楽しみでなりません。まずは今回の『ファースト・デート』を彼がどう表現し、同時に血肉としてゆくか、見守りに行きましょう!

*公演情報*
ファースト・デート』11月22日~12月4日=シアター・クリエ 12月6日=サンケイホールブリーゼ

*次ページで『ファースト・デート』観劇レポートを掲載しています!

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