善玉菌の活躍は腸内だけじゃない?
近年「腸内細菌」が大ブームとなり、善玉菌と悪玉菌の話を聞かれた方も多いでしょう。実はこの善玉菌、「手のひら」においても重要な役割を持っていることが分かっています。手のひらには数百から数千万個の細菌がいますが、そのうち人間にとって重要な細菌は「表皮ブドウ球菌」と呼ばれる善玉菌です。汗や皮脂を栄養として吸収分解し、その際発生した弱酸性の脂肪酸がまた汗や皮脂と混ざり合うことで、pH4.5~6.5の弱酸性の理想的な皮膚の表面(皮脂膜)を生み出します。
皮脂膜が肌の表面を覆っていると、潤いのあるきれいな肌質が保たれ、外部からの病原菌や雑菌をブロックしてくれます。よくTVなどで”肌とおなじ弱酸性の成分配合”などと耳にしますが、こうした雑菌の繁殖を防ぐために、皮膚を弱酸性に保つ大切な役割を果たしているのが表皮ブドウ球菌なのです。
ばい菌(黄色ブドウ球菌)と戦う、善玉菌
また、表皮ブドウ球菌が分泌する酵素によって、病原菌の一種である「黄色ブドウ球菌」が破壊される仕組みが、慈恵医大の水之江教授らにより2010年5月に発表されています。表皮ブドウ球菌には、黄色ブドウ球菌の菌膜を壊すタイプと壊さないタイプがあり、壊すタイプは「セリンプロテアーゼ」というたんぱく質分解酵素を分泌し、悪玉菌を破壊するとのことです。善玉菌のなかにもスーパー善玉菌がいて、悪玉菌を実際に破壊しているとは驚きです。
この酵素は、抗生物質が効かない薬剤耐性菌にも効果があり、新たな治療法開発に役立つ可能性があるということで、今後の開発が期待されます。
効果的な手の洗い方
善玉菌(表皮ブドウ球菌)とは違い、手指上に付着しただけの通過菌(常在していないばい菌)は、丁寧な手洗いで容易に殺菌・洗浄されます。流水と石けんで15秒間手洗いすることで、手の細菌数は4分の1から12分の1に減少し、30秒間の手洗いでは、手の細菌数は63分の1から630分の1に減少します。
けれども、手洗いをしすぎると逆に手荒れを起こし、細菌がくっつきやすく、とれにくくなることがあります。通常であれば通過菌はよごれと同様に手洗いで十分殺菌・洗浄できますが、手荒れがある皮膚ではこれらの通過菌が居座り、洗い流すことが難しくなるのです。
帰宅時や食事前など、一区切りの作業ごとに手を洗う事が重要なのは言うまでもありませんが、できるだけ低刺激性の自分にあった手洗い剤を選び、洗い過ぎないことも重要なのです。
また、速乾性擦式手指消毒剤として市販されているアルコールラビング製剤は、少ない皮膚へのダメージで通過菌(常在していないばい菌)を殺菌・洗浄するとの報告もあり、これらを上手に使うことによって手荒れをできるだけ低減することも可能です。
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■参考資料
- 手荒れと手指衛生の科学,花王株式会社 化学品研究所 C&S商品開発センター
- 表皮ブドウ球菌特異酵素による院内感染対策
東京慈恵会医科大学細菌学講座,上原記念生命科学財団研究報告集, 27 (2013)