出産予定日(分娩予定日)を過ぎても陣痛がこないのは、なぜ?
子宮、胎盤、羊水など、胎児を育む環境は、妊娠38週頃に最も機能が高まり、その後は徐々に低下します。出産予定日を過ぎて陣痛がこないと、胎盤機能が低下する、羊水が減少する、赤ちゃんが大きくなりすぎて難産になる、などと心配になるかもしれません。分娩予定日を過ぎたのに陣痛がこなくてイライラ……
陣痛が始まるメカニズムは解明されていませんが、1つの仮説として、子宮内環境が悪化すると胎児が出たくなるから、と考えられています。子宮内環境が良好で、赤ちゃんが「居心地が良いから、まだ出たくない」と感じている間は、なかなか出てきません。ある程度、環境が悪化することが必要なのです。
周囲の人から「まだ?」と声をかけられたり、メールがあると、不安になるのは、皆、同じ気持ちです。医学的には、予定日超過は病気(疾患)ではありませんが、出産予定日を過ぎた場合の医学的な管理と、実情を解説します。
出産予定日(分娩予定日)と満期産について、最近の考え方
次のグラフは、妊娠初期の超音波検査や不妊症治療のデータから、できるだけ正確に出産予定日を決定した場合の、実際に分娩した日の分布です。この1997~2001年当時は、42週を過ぎてから陣痛誘発を行っており、骨盤位や双胎なども原則は自然陣痛で経腟分娩をしていたので、人間本来の分娩時期に近い分布です。しかし、現在では、妊娠41週に入ると陣痛誘発が行われ、産まれなければ42週までに帝王切開となることも多く、このグラフは当てはまりません。
昨年2019年、約1800件の出産のうち、妊娠42週以降の出産が2件(0.1%)でした。つまり、この20年間で、全分娩のうちの過期産の割合が、3%から0.1%になったということです。この理由として、産まれてくる新生児の健康度が考慮されるようになったことがあります。
より正確な出産予定日が決定できるようになってから、これまで考えられてきた37週~42週未満の満期正期産であっても、新生児の健康度の視点で比べると違いがあることがわかってきました。
妊娠39週から40週で産まれた新生児の状態が良く、新生児死亡の率が少ないことから、妊娠39週0日から40週6日までが本当の満期と考えるようになってきました。
実際には、37週、38週、41週で生まれると、39週、40週で産まれるよりも、保育器に入ったり、一時的な酸素投与、新生児の点滴、保育器に入る頻度が多少高くなる。といった違いです。
その結果、妊娠41週を過ぎて陣痛が始まらない場合、何らかの医学的な処置が検討されるようになり、42週になる前に分娩を終わらせるようになってきました。
出産予定日を過ぎた妊娠の医学的な取り扱い方針
- 出産予定日(妊娠40週0日)が正しいことを確認する。月経周期や最終月経が不確実な場合には、妊娠初期の胎児計測値で予定日の修正が必要です。正しく設定されておれば、妊娠37週0日から妊娠41週6日の間に95%近くの方が出産します。
- 妊娠40週0日を過ぎたら週2回(3~5日毎)の健診で、母体と胎児の健康度をチェック。胎児心拍数モニタリング(ノンストレステスト)、超音波羊水量計測などを行います。
- 妊娠41週0日までは、健診で異常がない限り特別な医学的処置はしない。
- 妊娠41週0日以降は、個別に子宮口の熟化(柔らかさ、開口度、児頭下降度)などの医学的判断と、本人の意向をふまえて、分娩誘発するか、陣痛待機するかを検討する。
- 妊娠42週0日以降(過期産)ならないように分娩誘発を考慮する。子宮口の熟化が不十分な場合は、帝王切開の可能性も想定する。
妊娠41週を過ぎて陣痛がこない際の妊娠管理の実情
妊娠41週を過ぎた場合の医学的管理方法は、さまざまな視点から検討されているものの、優劣付けがたいことから、実際には地域の実情、産科施設の実情、医師の診療哲学、本人の希望などにより、いろいろなケースがあります。両極端の場合とその中間を紹介します。■分娩誘発はせずに妊娠41週中に帝王切開
妊娠41週を過ぎたら、分娩誘発は行わず帝王切開を予定します。分娩誘発のトラブルを回避するために徐々に増えつつあります。結果的に出産の30~50%が帝王切開になり、医学的には疑問な点もありますが、海外では、その程度の帝王切開率はあたりまえの国もあります。
■原則として自然待機
妊娠41週以降のみならず、妊娠42週以降も一日おき(隔日)に母体と胎児の健康度をチェックして、母体と胎児に異常がない限りは自然に陣痛を待つ。以前は、このような方針の施設も多く見られましたが、今では少なくなりました。
■子宮口が熟化している場合に分娩誘発
現在、妊娠41週以降には分娩誘発する施設が多いと思います。陣痛誘発剤には、オキシトシン(点滴)、プロスタグランディンF2α(点滴)、プロスタグランディンE2 (内服錠)があり、医学的判断で使い分けられます。これらの薬剤の使用に際しては、医師から、妊娠の状態、分娩誘発する上で注意している点などを説明の上、本人、家族が納得したことを記載した同意書が必要となります。
■子宮口が熟化していない場合
子宮口が熟化していない場合には、陣痛誘発剤だけではなかなか分娩になりません。方針も施設によってさまざまです。機械的な頚管熟化処置として、吸湿性頚管拡張材(ラミナリア、ダイラパン、ラミセル)、子宮頚管拡張バルーン(風船)などが使われますが、最善のものはなく、他に手段がないのでやむをえず使用しているのが実情だと思います。
現在、産科施設の減少により、住んでいる地域やアクセスできる施設の方針に従うしかなく、選択肢はあまりありません。
陣痛がこない方へ、おすすめ運動、過ごし方
出産予定日を過ぎて、陣痛がなかなか始まらない時、よく運動すれば、早くお産になるという医学的な証拠があるわけではありません。しかし、昔から、産み月になったら、次のようなことが言われています。- 「豆拾い」をすると安産になる……大河ドラマで、お世継のお産が近いお姫様が、安産のために、豆拾いをさせられるシーンがありました。
- 「便器磨き」をすると安産になる
- 「9ヶ月に入ったら「肛門を真下」になる姿勢を意識」すると、楽なお産になる……坂本フジエ著「大丈夫やで ~ばあちゃん助産師のお産と育児の話 2011」より
人間は、他の哺乳類に比べて、お産が難産だといわれますが、その理由は立位行動する動物だからです。立位のためには、子宮や膀胱などの内臓を支える骨盤底筋群と、脊椎、骨盤、大腿骨を内側から支えるインナーマッスルが必要です。
そして、お産の時、この骨盤底筋群とインナーマッスルが、人生最大、あり得ないほど引き延ばされます。
もし、陸上選手がウォーミングアップをせずに、いきなりダッシュすれば、アキレス腱が断裂し、再起不能になることもあるように、分娩で、骨盤底筋群やインナーマッスルがいきなり引き伸ばされ、筋損傷を起こすと、産後に尿漏れ、子宮下垂、膀胱下垂などを起こします。お産に備えて、骨盤底筋群、インナーマッスルのウォーミングアップは重要であり、結果的に、お産の進行も期待できます。
【おすすめの運動】
- 和式トイレに座る姿勢、足の裏をつけて5~10分
- お相撲さんの蹲踞の姿勢 つま先立ちバランス
- スキージャンプのように、滑降時の姿勢から身体を延ばす動作(ゆっくり)
- 深くないスクワット、立ったりしゃがんだり
(転倒しないように、必要なら柱などにつかまって行いましょう)
子宮収縮に伴い下腹や腰が痛くなるのは、骨盤底筋群や、インナーマッスルがが伸ばされているということで、お産のためには必要な症状です。
分娩に必要な体力は、一晩がかりで富士山に登るのと同じ位と考えられます。1~2割の人は体力不足で山頂登山を途中断念しますが、分娩で言えば、体力不足で経腟分娩をあきらめ、帝王切開になるということです。
ふだん運動不足の人が、富士登山ためにウォーキングで足腰を慣らしておく必要があるように、妊娠中も37週になったら、安全に歩ける場所を探して、体力維持のために毎日1~2時間のウォーキング、階段昇りなどはおすすめです。
切迫早産で治療されていた方、合併症のある方は、健診の際、いつから積極的に動いて良いか確かめましょう。
【関連記事】