『ミス・サイゴン』への熱い思い
原田優一さんとのお稽古場ツーショット(撮影 演劇ガイド・上村由紀子)
――7月の帝劇から始まり全国を回られた『ミス・サイゴン』。岡さんはジョン役として2004年からこの作品に関わっていらっしゃいますが、10月5日の横須賀での大千秋楽、どんな思いで迎えられましたか?
岡
それはもう本当に様々な思いが込み上げてくる千秋楽でした。横須賀での最終日にはじめちゃん(エンジニア役の駒田一さん)が、「今回の『ミス・サイゴン』という座組みの組長は幸二郎だ。」と舞台で言ってくれたんですが、10年間出演している事や年齢的に上の立場だったこともあり、今年はアンサンブルのメンバーや若手出演者のケアも自分の役目だと思ってカンパニーに参加していました。色々な事がありましたが、この作品に10年間関われたことを心の底から幸せに思っています。
『ミス・サイゴン』ジョン役 (写真提供 東宝演劇部)
――新演出ではジョンの演出や歌詞にもいくつか変化がありましたね。
岡
2幕の冒頭でジョンが歌う「ブイ・ドイ」の歌詞も映像も変わりました。また、2幕のバンコクのシーンで夜の街をキムを探して歩くジョンが一瞬ですが側にいる女性にちょっかいを出すんですね。確かに彼はアメリカ兵とベトナム人女性との間に出来た子供たちを救う運動もしているんですが、完全な聖人君子に生まれ変わったわけではなく、ふとした時にそういう行動も取ってしまう。これはとても鋭く人間の本質を見据えた演出だと思います。新演出ではそういう箇所が随所にあり、役の人物を更に深く掘り下げて演じる事が出来ました。
――今回、キムが自死する前にタムに着せる洋服と帽子にあのキャラクターが復活したのが嬉しかったです。
岡
おお、そんなピンポイントな所まで! あそこはキムの心情を思うと泣けますよね。アメリカ人として生きて行って欲しいと、幼い息子にアメリカを代表するキャラクターの服を着せるんですが、それが屋台かどこかのマーケットで買ったニセモノであるという……。
『ミス・サイゴン』キム役の笹本玲奈さん(写真提供 東宝演劇部)
『ミス・サイゴン』クリス役の原田優一さん (写真提供 東宝演劇部)
フルオーケストラをバックに歌う『ベスト・オブ・ミュージカル』
――そういう視点で観ると、更に色々な事が心に刺さります。そしてこの『ミス・サイゴン』公演中にデビュー25周年の記念CDとなる『ベスト・オブ・ミュージカル』もリリースされました。
岡
これはね、色々な事が奇跡的に重なり合って実現した企画なんです。デビュー25周年で25曲収録、もそうなんですが、何と言っても1番拘ったのがフルオーケストラをバックに歌う事。このCDを録音する少し前から喉の状態が凄く良くて「今のこの声を残したい!」と強く思い動きました。そして都内に1箇所しかないフルオーケストラが入れるスタジオの空きと指揮者の方の都合と私のスケジュールの全てが嘘のように一致して「今、やるしかないんだ」と。フルオーケストラをバックに俳優が1人で歌うCDをリリースするのは世界でも初めての事だそうです。
(撮影 演劇ガイド・上村由紀子)
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1994年にオリジナル版『レ・ミゼラブル』で圧倒的なカリスマ性を持つ学生たちのリーダー・アンジョルラスを演じ、演劇界の話題をさらった岡幸二郎さん。その後も同作品のジャベールや『ミス・サイゴン』のジョンをはじめ、様々な舞台でご活躍です。
ノーブルな貴族から冷徹な敵役、そして小指を立てて踊る振付師まで様々なキャラクターを演じ切る岡さんの魅力の1つが”非日常感”。徹底した役作りとストイックさで観客を夢の世界へ誘う姿勢は正にプロフェッショナル!そんな岡さんが『UTA・ IMA ・SHOW II』では盟友・林アキラさんやゲストの皆さんとどんな夢を魅せてくれるのか注目したいと思います。
⇒ 次のページでは『UTA・IMA・SHOW II』の稽古場リポートをお届けします。出演者の撮り下ろし写真もお楽しみに!