絵本

子育てに葛藤する思いを抱きしめる『おこりんぼママ』

ママペンギンに激しく怒鳴られてバラバラになり、地球のあちこちに飛んでいってしまうペンギンの子ども「ぼく」の体。こんな衝撃的な展開の『おこりんぼママ』ですが、思うようには決していかない子育てに奮闘する親たちの心に寄り添っている絵本です。

執筆者:千葉 美奈子

 ママの気持ちを抱きしめる絵本『おこりんぼママ』

ママペンギンが子どものペンギンをものすごく怒鳴ったら、その子がバラバラになって飛んでいってしまった……。そんな衝撃的なシーンから始まる絵本『おこりんぼママ』。子どものペンギン「ぼく」は、バラバラになった自分を集めるために、残った足ではるかな旅に出かけます。子どもに感情的に怒鳴ってしまって落ち込んだ経験がある方は、少なくないと思います。そんな方が読んだら、心がズキッとするかもしれません。でもこれは、そんな心をしっかりと抱きしめてくれる絵本なのです。


 

バラバラになった自分を探す「ぼく」の旅

頭は宇宙まで飛んでいき、おなかは海に、翼はジャングルまで。もう、とことん衝撃的です。足だけのぼくが、自分のパーツを探しにはてしない旅に出るのですから。

厳しく叱られた子どもの心は、たとえ自分が悪いとわかっている場合でも激しく動揺して、こんな風にパーっと飛び散っているのでしょうか。叱られたことを受け止めきれずに、大泣きしたり、暴れたりという行動も、自分と闘い、自分自身を取り戻す作業なのかもしれません。その作業は大人が考えているよりもずっと難しく、ぼくがはてしない旅に出るようなものなのかもしれません。

そして、そんな収拾がつかなくなった我が子を見る親の心も多かれ少なかれざわつくもの。子育てが自分の思ったようにいかないことなんて重々承知だし、怒るのではなくなるべく冷静に諭そうと思っても、そうはいかない局面もたくさんあります。居場所をなくしたようになった親子双方の心は、どこに行き着くのでしょうか……。


大丈夫、ちゃんと修復できる

自分を取り戻せなくて広い砂漠でくたくたになった足だけのぼくは、ちゃんと自分を取り戻すことができます。旅の途中、一番会いたかったであろうママ。やっぱりぼくの心をつなぎ合わせたのはママでした。

もっとこうすればよかった、こんなつもりじゃなかったと、冷静になると悔やむことも多い子育て。誰もがそんな気持ちを多かれ少なかれ抱えているのではないでしょうか。私は、子どもとの関係で平静を失って落ち込んだときに、ある言葉に救われました。それは「子育てには取り戻せるチャンスが何度もある」という言葉でした。

一時的に飛び散った親子の心は、お互いの努力があれば必ず再び結びつくことができます。それは数時間後や翌日かもしれないし、数日後、数カ月後、もしかしたら数年後かもしれません。子どもが成長して自我が強固なものになっていけばいくほど、親子関係も複雑になり、こじれた感情を修復するには思ったより時間がかかることもあるかもしれません。

「バラバラになってしまったぼくはどうなるんだろう?」と、ドキドキのストーリー展開を追うのは4~5歳ぐらいからできると思いますが、それ以上に、子育て中の方々に1人で味わうこともおすすめしたいです。自分を取り戻そうとするペンギンのぼくの姿は、成長しようともがいている姿にも見えます。衝撃的ではありながら、子どもとの関係づくりにヒントを与えてくれる絵本ではないかと思います。
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