いきなり本文を読んではもったいない? 絵本『おべんともって』
絵本を読む時、ささっと表紙を開いて見返しを飛ばし、書名や著者名が書かれた本の扉には見向きもしないで、文章を読み始める方が意外に多いと聞きました。そんな方に絵本を丸ごと全て味わう面白さを知っていただきたいと思い、『おべんともって』をご紹介します。表紙から本の扉まで、本文に入る前のたった2ページをめくるだけでお話の背景がわかり、お話の展開に期待感が高まってくる……そんな「絵がお話を語る」という絵本の醍醐味を味わえる作品です。秋の魅力もたっぷりと描きこまれています。遠足みたいな「おつかい」が楽しい秋の絵本
可愛らしいくまの男の子の表紙絵に惹かれて本を開くと、木の葉が描かれた茶色の見返しが目に入ります。白抜きのくまのシルエットが目立っていますが、よく見ると葉っぱに混じって色々な動物の姿を見出すことができます。まるでかくれんぼ絵本のような見返しですが、なぜこんなところに動物たちが隠れているのでしょう?さらにページをめくれば、お母さんぐまと小さな赤ちゃんぐまが描かれた本の扉があり、くまの子一家がおそらくは4人家族であることがわかります。では、お父さんはどこにいるのでしょう? まだお話が始まる前なのにそんな疑問もわいてきます。
巧みな構成ですね。言葉ではただのひと言も説明されていないのに、読者はお話が始まる前に既に物語の世界を感じ、いくつかの疑問を通して「どんなお話なのだろう?」とすっかり心をつかまれているのですから。
秋色に染まる林の美しさの表現もこの絵本の見どころの1つです
友だちの誘惑(?)を振り切って無事にお弁当を届けたくまの子は、お父さんと一緒にそのお弁当を開きます。深まる秋の林で大好きなお父さんと食べるお弁当は、本当に美味しそうです。でも、食後に探険に出かけた林の中で、くまの子は落ち葉の布団にくるまって、ついうとうとと眠ってしまいます。いったいどんな夢を見ているのでしょう?
空が真っ赤な夕焼けに染まり、家路を急ぐくまの親子の姿が画面いっぱいに広がるとお話はもうすぐ終わりです。そしてむかえる最後のページにも文章はありませんが、気持ちがほんわかするようなくまの親子の絵が描かれ、何とも言えない余韻を残します。最初から最後まで「絵がお話を語る」絵本の面白さを味わえる温かな作品です。
【書籍DATA】
森山京:文 片山健:絵
価格:1296円
出版社:偕成社
推奨年齢:3歳くらいから
購入はこちらから