介護

高齢者の食事介助方法……30度・90度の姿勢がよい理由

【管理栄養士が解説】高齢者の食事に必要なのは、やわらかい介護食を作ることだけでありません。おいしく安全に食事ができるよう、姿勢にも配慮して食事介助することが大切です。マヒや拘縮、痛みの有無などにあわせ、ベッドの角度を30度・90度に傾けるなど臨機応変に対応する必要があります。食べるときの姿勢、足の位置、食事を介助するときの基本について解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

高齢者の食事介助で大切な「姿勢」

食事介助をベッドで行う際には30度・90度の意識を

お年寄りは疲れやすいことが特徴で、食事をするだけでもたいへんな労力です。食事の内容だけでなく、食事中の姿勢や食事介助に配慮することで、食事が楽しくなります。


お年寄りは歯が少なくなり、喉の筋肉が衰えることで、食事が食べづらくなっていきます。そのため、食べ物はやわらかく調理し、必要に応じて細かくカットするなどの対応が必要です。

さらにもう1つ。お年寄りの食事で大切なのは、食事をする際の「姿勢(病院等では、体位と説明を受けます)」です。子供などは「背筋を伸ばしなさい!姿勢が悪い!」などと叱られるものですが、お年寄りの姿勢が良くないのは、行儀の良し悪しでは片付けられません。いかに食べ物が気管に入らないようにするかを考えなければなりません。
 

安全な食事の姿勢

お年寄りが食事をする際に気をつけなければならないのは、「食べ物が気管に入らないようにすること」に尽きます。そのための基本姿勢は「足を床につけた軽い前傾姿勢」です。

手でスプーンや箸、皿などを持ったり、顔をテーブルに近づけたりする動作は、必ず前かがみになります。そのため、座る姿勢を若干、前のめりにすることがポイントです。前のめりになると、重心が前のほうに移動するため、身体が椅子からずり落ちないように腹筋や背筋の力と足で踏ん張って支えようとするのです。そのため、足が床についていないと踏ん張れないのです。
 
姿勢とともに、椅子やテーブルの高さ、サイズも確かめたい

姿勢とともに、椅子やテーブルの高さ、サイズも確かめたい

椅子に座ることができるのであれば、椅子で食べるのがベストですが、車椅子で食べる場合も同様です。車椅子にはフットレストがついていますが、足は床に下ろして下さい。フットレストでは足が踏ん張れません。正直、病院や介護施設でも、マンパワーの関係で床に足を下ろしていない施設が多いのですが、足を下ろすだけのひと手間で食事量がまったく変わってきます。

前傾姿勢を保つためには、背中や頭の後ろなど必要な部分にクッション等を入れて支えるようにしてください(食事中にずれてしまうこともあるかと思いますが、適宜、直してください)。その際、テーブルは高すぎないか、椅子は身体の大きさにあっているかなども確認してください。
 

ベッド上で食事介助する際の姿勢……30度・90度がよい理由

ベッド上で食事をする時は、先ほどの基本姿勢と少し変わってきます。ご自身で食べられるのであれば、ベッドを椅子のように90度にギャッジアップして背もたれを作ります。

この姿勢は、椅子に座ったように感じられ、食べようという気持ちになることと、上肢が動かしやすいので自分でスプーン等を動かしやすいのです。さらに、普通の人が床の上に座っているのと近い姿勢になりますので、逆流の危険が少ないこと、嚥下反射が起こる前に食べ物が喉のほうへ行かないという利点があります。

しかし、拘縮やマヒなどで90度ギャッジアップを苦しがることもあります。その場合は、30度にギャッジアップして食事をしてください。30度の場合、自分で口へ運ぼうとするとこぼれやすいので注意をしてください。私の考えでは、自分で食べようという意欲のある人は、可能であればそのとき苦しがっても、自分で食べている間だけでも90度にするほうがよいように思います。疲れて自分で食べなくなり、食事介助が必要にになっても30度にして食事を続けることもできますから。

30度の利点は、飲み込みやすいこと、口から食べ物がこぼれにくいこと、食べ物が気管に入りにくいことがあげられます。反面、自分で食べようと思った場合には、テーブルと目線がほぼ一直線になってしまうため、テーブルの上が見えず、どこに何があるか分かりません。
 

食事介助のコツは「焦らないこと」……家族の時間を楽しむ気持ちで

食事介助で大切なことは、とにもかくにも「焦らないこと」

食事介助で大切なことは、とにもかくにも「焦らないこと」


お年寄りの食事は総じて、ゆっくり時間をかけて召し上がる方が多いようです。病院や介護施設ですと、介護スタッフの1日のスケジュールが決まっているため、食事が終わるまで待っていることができず、「遅いから」「こぼすから」とスプーンを奪い、食事介助をする姿も往々にして目にします。これはご本人からすると、とても惨めだと思いますし食事を提供した栄養科の目から見ても、泣きたくなります。

おウチで介助されるときは、多少時間がかかっても、可能な限り、見守ってあげてください。こぼすのであればエプロンを使って、こぼれても洋服が汚れないように配慮し、最初からこぼす分を見込んで皿に入れてあげればよいのです。

ただし、食事の途中で前に手が止まってしまった場合には、「もういらないのですか?」ではなく「お手伝いしたら食べていただけますか?」と声をかけてください。食べたいけれど、手が疲れて食事が止まっていることが往々にしてあります。

余談ですが、お年寄りはYes/Noで返答できる質問には、なぜか「Yes」で返答されることが多いです。「もういらないのですか?」でYesと返答が戻ってきたら、残りは食べていただけません。「お手伝いしたら食べていただけますか?」でYesが戻ってくれば、食事介助で食べていただけます(実際、完食できることも多いですよ!)。

また、実際の食事介助をする際は、必ず横に座ってください。忙しいからと立ったままでの、食事介助は止めてください。介助者が立っていると、お年寄りは、食事中に介助者の顔を見ようと、上を向きます。上を向くと誤嚥のリスクが高まりますので、食事介助の際は必ず座ってください。座る位置は前だと威圧感がありますので、横がオススメです。食事介助をする際は、「これはお魚ですよ!」等、一口ずつ、食べ物を教えてあげるとコミュニケーションになります。

また、食事介助で食事を口に運ぶ際、こぼれないようにとスプーンを上唇に沿わせるように動かす方がいます。しかし、自分で食事をするときを考えれば、そのように動かすことはあまりないはずです。スプーンは口の中にまっすぐ入れて、まっすぐ引き出すようにしてください。

のどをよく見ていていただくと、飲み込んだと同時にのど仏が動くのが分かります(女性でものど仏付近の骨が動きます)。そのタイミングで、次の食事を口に入れてください。そのとき必ず、口の中に何も入っていないことを確認して下さい。半分しか飲み込めていないなど、口の中にまだ残っていることが往々にしてありますので、その場合は、一口量を減らしたり、スプーンだけを入れてあげると、噛んだり飲み込んだりの動作を再開してくださることが多いです。

食事介助で大切なことは、とにもかくにも「焦らないこと」。ゆったりした気持ちで、ゆっくり流れる家族の時間を楽しんでください。

このように、食事の時間は、ご家族とお年寄りとのコミュニケーションに最適な時間です。食事の時間を有意義に過ごすことで、後々の思い出がよいものになると感じるのは、栄養士のエゴでしょうか?

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