介護/食事・口腔ケア

“ごっくん”できない高齢者…そのカギは「とろみ」(2ページ目)

「最近おばあちゃん、お茶を飲むときムセるんだよね」なんてことはありませんか?意外に思われるかもしれませんが、嚥下機能が低下したお年寄りは「さらさらした飲み物」を飲み込むのに苦労をします。これを解消するには飲み物に「とろみ」をつけることが効果的です。今回はその「とろみ」についてお話したいと思います。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

上手にとろみをつけるポイント

とろみを上手につけるためには2つのポイントがあります。

  1. とろみ剤を飲み物全体に拡散させること
  2. 飲み物がとろみ剤を吸収して膨らむまで、時間をかけて待つこと
です。

手順としては、飲み物に適量のとろみ剤を入れ、30秒程度よく混ぜ、とろみがつくまで放置するというのが一般的です。病院や介護施設でもこのようにしてとろみをつけているところが多いです。しかしこの手順ですと、よく混ぜるの工程をはしょってしまう人が多く、とろみ剤が上手く全体に拡散されません。そのため底にとろみ剤がどろっと固まって残っていたり、ダマになりやすいのです。残念ですが、このポイントをきちんと理解している人は、プロの介護士でもほとんどいないように思います。理解していても、食事のお膳を前にお茶の準備を待っている患者様のお顔を拝見していると、心に余裕がなくなってしまい、30秒混ぜ続けることは難しいのかもしれません(混ぜている時の30秒は意外と長いです)。でも、危険な飲み物を提供するわけにはいきません。

そこで、自宅で飲み物にとろみをつけるのにオススメの方法があります。最初にとろみ剤をコップの中に入れ、そこへ飲み物を勢いよく注ぎ込みます。飲み物を注いだら間髪をおかず、しっかり混ぜて下さい。間髪をおかずに混ぜ始めることがポイントです。すぐに混ぜ始めないと、吸水が始まり、ダマになってしまいます。もし、ダマになってしまったら、ダマは取り除いてください。喉に詰まってしまう危険があります。

混ぜる方法は、小型の泡だて器(100円均一にもあります)やフォーク等で混ぜてもいいですし、コップを2つ用意して、2~3回、移しかえるようにして混ぜてもいいと思います。いずれの方法でも、しっかりとろみ剤を飲み物に拡散することが何よりも重要です。

次に、飲み物がとろみ剤を吸収して膨らむまで待ちます。一般にとろみ剤は「温度が高いほど」「塩分、糖分などの混ざり物がない」ほど早くとろみがつきます。
お年寄りがよく飲むであろう飲み物のとろみのつき方を比べると、とろみがつきやすい順に、お茶(50℃)→水(20℃)→冷水(10℃)→みそ汁(60℃)→100%果汁飲料(10℃)→牛乳(10℃)となります。

ここで気をつけたいのは、お茶・水くらいであれば、混ぜている間にとろみがつき始めますが、みそ汁やジュース、牛乳などは、混ぜている間にはとろみがつき始めません。そのため「とろみ剤が足りないのではないか?」と勘違いして、とろみ剤を追加してしまう人がよくいます。みそ汁などのとろみのつきにくい飲み物の場合、飲み物がとろみ剤を吸収するまで5~10分程度かかります。30秒程度混ぜた後、そのまま5~10分待ち、実際に飲むときにもう一度、かき混ぜるときれいなとろみがつきます。下手にとろみ剤を増やすと、時間が経つにつれて必要以上に固くなってしまい、逆に飲み込みにくくなってしまいます。みそ汁にとろみをつける場合、具なしのみそ汁にとろみをつけてください。具が入っていると誤嚥しやすくなります。

生きてきた過程が違うから、合うとろみの濃さもひとそれぞれ

お年寄りの身体は同年齢・同性であっても個人差が大きいため、「とろみ」の濃さも人それぞれに適した濃さがあります。とんかつソース程度のどろっとしたとろみがよい方もいれば、ポタージュスープ程度のさらっとしたとろみが飲みやすい方もいらっしゃいます。この違いは「反射」のスピードに個人差があるため、そのスピードに合うとろみの濃さがあるのです。ですから、とろみはついていればよいのではありません。その方に合うとろみの濃さを探す必要があります。

その方に合うとろみの濃さを知るには、嚥下造影という検査によって病院等で確認するのがベストですが、難しい場合がほとんどでしょう。そのため、後述のとおり、濃いとろみは危険が高いので、薄いとろみからはじめて、ムセてしまうようだったら少しとろみを濃くして様子をみるのがよいでしょう。

その方に合うとろみの濃さがみつかったら、いつもその濃さにそろえる必要があります。飲み物の量(カップ八分目など目安を決める)ととろみ剤の量(軽量スプーンですりきり1杯はかるのがオススメ)を一定にし、とろみの濃さを揃えるようにします。

時々見かけるのが、ジャムのような固さにとろみをつけている例です。食事介助をする際、とろみが濃いほうがスプーンに乗りやすく、口元から垂れることが少ないので飲み込みやすいと勘違いしているのではないかと思います。しかし、濃いとろみは口の中やのどに張り付いてしまい、嚥下のための「反射」が終わった後に、下へ流れていくこともあります。こうなると、じわじわと気管へ流れ込んでしまいます。この場合はムセていない(咳をしない)にもかかわらず、誤嚥が起こるので発見が遅くなります。

とろみ剤の売り文句に「飲み物の味を変えない! 」というキャッチフレーズをよく見かけます。しかし、味が変わらなくても口に入れたときの食感(テクスチャー)が違うと、まったく別物になってしまいます。そのため、とろみ剤をたくさん入れればその分味も違って感じられます。とろみは濃ければよいというわけではないのです。

実際にお年寄りに提供する前に、とろみをつけた飲み物がどのような味なのか、試食をしてみるとよいと思います。

奥の手をお教えしましょう

ここまでとろみ剤を使ったとろみのつけ方についてお話しましたが、自信がない、外出が多いなどとろみをつけることが難しい場合には、若干高価ではありますが、固さを一定に調整した水分補給用のゼリーや、水に溶かして待つだけで室温に置いたままでもゼリーができるような商品も市販されているので利用してみてください。

それと、最後にもう1つ。誤嚥を防ぐためによい方法があります。それは飲み物をゼリーにする方法です。病院や介護施設では「介護用寒天」とか「介護用ゼラチン」といった商品を使ってゼリーを作っているところも少なくありません。とは言うものの、これらは一般家庭ですぐに手に入るものではないので、私がオススメするのは、粉ゼラチンです。粉ゼラチンは吸水が早く、扱いやすいですし、スーパーでもよく見かけるので家庭向きだと思います。

ゼラチンはご存知のとおり、固まる温度(凝固温度)が低いので冷蔵庫でしか固まりません。その代わり、30℃くらいで溶けはじめるので、口の中に入れた瞬間体温で溶けます。そのため、スプーンから垂れず、お年寄りの口の中に入れた瞬間にす~っと溶けはじめるため、飲み込みのステップが進むごとに少しずつ溶けていき、喉に張り付いた食べ物を食道・胃へ押し流してくれるのです。ムセてしまった患者様にゼラチン茶を飲んでいただき、ムセがおさまったのを何度も経験しています。

ただし、取り扱い上の注意点が1つ。ゼラチンは30℃くらいで溶け始めるので、夏の室温や冬でも暖かい部屋の中に長時間置きっぱなしにしてしまうと、口へ入る前に溶けてしまうことがあります。必ず、食べる直前に冷蔵庫から出すようにしてください。

粉ゼラチンで飲み物を固める方法は、飲み物の量に対して5%くらいの濃度になるように調節して作る(飲み物100mlに対して粉ゼラチン5g)と扱いやすいと思います。

このように、お年寄りの喉は働き盛りの頃と比べて、ずいぶん変化しています。お年寄りの変化に「食べ物」「飲み物」を合わせて差し上げることが大切になります。
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