路線は武蔵野台地上を走り、
川越あたりまでが都心通勤圏
続いて、住宅的な観点から東武東上線全体をざっと見ておこう。まず、路線が走っているのは主に武蔵野台地上。特に池袋から川越までは途中に河川が刻んだ谷底低地(こくていていち)も多少あるものの、概ね台地。以降、川越市から鶴ヶ島市、坂戸市以遠は入間川などの低地部分があり、さらに森林公園以遠はまた台地中心に。沿線で住宅を考える時には台地を刻む低地に注意すべきだろう。
都心への通勤圏はおおよそ川越市(駅名ではなく自治体の意)あたりまで。川越市は都心から30キロ圏となっており、平成22年の国勢調査で見ると、川越市在住で市内通勤・通学者は42.9%。残りは市外に通勤・通学をしているわけだが、そのうち、27.2%は埼玉県内で、東京通勤・通学者は18.6%。川越市がこのエリアの中心となっており、以遠からの通勤・通学はここに吸引されている可能性が高いと思われる。
物件の供給状況で見ると、池袋から下赤塚までは比較的早くから宅地開発が進んでおり、そのため、大規模な物件は少なく、賃貸、一戸建て、中小規模のマンションが混在するのが一般的。駅周辺には個人商店を中心にした商店街が形成されており、全体を通じて物価が安いのも特徴。大山駅のハッピーロード大山、遊座大山などには電車に乗って買い物に来る人もいるほどだ。
古くから開発が進んだ分、不利に思われるのが駅前の狭さ。ロータリーを作るほどの広さがない駅も多く、バス停が遠い、駅に車が乗り入れられない、渋滞するなどの弊害も。同じ池袋をターミナルとする西武池袋線では駅前の整備が進んでいる。東武東上線もなんとかならないかと思う。
成増以遠は大規模物件と一戸建てが混在、特に東武鉄道が大規模にマンション開発したふじみ野には住宅だけでなく、ショッピングモールなどもあり、乗降客数も多い。沿線には和光市、朝霞市、志木市など市域は小さいものの、独自の教育施策に取り組む自治体があるのも特徴だろう。
ターミナル池袋の魅力と
人気の秘密、これからの課題
最後にターミナルとしての池袋について。池袋はJRの山手線、埼京線、湘南新宿ラインなどに加え、東武東上線、西武池袋線、東京メトロ丸ノ内線、同有楽町線、副都心線が乗り入れる一大ターミナルだが、長年、人気という意味では渋谷、新宿の後塵を拝してきた感があるのは否めないところ。
だが、近年、その池袋が変わりつつある。リクルート住まいカンパニーの2014年、住みたい街ランキングで3位、HOME'Sの賃貸物件問い合わせ数でも関東エリアトップなどと、これまでにない数字が話題になっており、人口の増加率も05年から10年にかけて13%強と都内有数。この理由としては豊島区の文化戦略、地道に増えてきた女性向けの商業施設などが挙げられるが、住宅的には平坦で池袋を最寄りとするエリアが広い点がポイントとなっている。
池袋はもともと池が多かった平坦な土地で、池袋駅から有楽町線の要町駅、同東池袋駅あたりまでは距離的にも、地形的にも十分に歩ける範囲。普通の人が住める価格帯の住宅地が周辺に広がっているわけである。それに比べると、駅周辺に坂があり、坂の上には高額な住宅街が広がる渋谷、駅から西を高層ビル群、東を繁華街や公園で仕切られてしまう新宿は普通の人には住みにくい場所。そのあたりが、池袋の高い人口増に繋がっているものと思われるのである。
一方で、民間研究機関「日本創成会議」は豊島区に消失の可能性があるという調査報告を出している。しかし、地方都市のように都市部と郊外部が明確に分かれているなら場所でならいざ知らず、東京都心部のように複数自治体が密に関わりあう場所で一自治体だけが完全になくなることは統計上はあったとしても、現実にはあり得ない。ただ、同調査で指摘された、若い女性に住みにくいという点について、豊島区が意識して施策を打ち出すことで、同区がより住みやすくなるとしたら、それは歓迎すべきところ。豊島区にはぜひ、危機感を持って女性が住みやすい街づくりをしていただきたい。
駅としての池袋にも苦言を呈しておきたい。地下街が広く、どの路線にも乗り継げはするものの、その分かりにくさ、動線の悪さは近年悪評高い渋谷駅といい勝負。渋谷駅より、縦方向の面倒くささがない分、多少はましだが、各鉄道会社がそれぞれに構内のナンバリングを行うようなことはさっさと止め、駅をひとつのものとして分かりやすく、使いやすくする努力をしていただきたいものである。
父が板橋区内の中学校に奉職していた関係で、東武東上線は子どもの頃から馴染みのある沿線。庶民的な雰囲気と賑やかな商店街、物価の安さは当時と変わらないが、足回りの利便性はぐんと良くなった。100年を機にもっと使いやすい、住みたい沿線に変わって行っていただきたいものだ。