クラシックのプロが選ぶ2014年上半期のベストCDはこれだ!
クラシックCDアワードにご協力いただき、座談会にお越しいただいた皆様! 右から山野楽器の峯岡さん、HMVの久保さん、タワーレコードの北村さん、そしてガイド大塚
「クラシックの新譜CDって、魅力ある面白いものがたくさん出てきますよね」
「本当ですよね。個性豊かなものがどんどん出てきていて、多くの人に聴いてほしいですよね」
「一番聴いてるCD屋さんオススメのランキングがあったら僕も知りたいなぁ」
ということで、やってみました!
クラシックCD屋さんが選ぶクラシックの名盤ランキング、2014年上半期です!
選者は、ローソンチケットでクラシック公演とCDの推薦記事も書く『HMV』の久保昭さん、名盤を復刻リリースするタワー企画もしている『タワーレコード』本部バイヤーの北村晋さん、充実の品揃えの老舗『山野楽器』でクラシック部門を統括する峯岡隆さんという、スペシャルなお三方(社名五十音順)。
皆様に点数を付けてもらったものを集計してできたランキングを紹介します!
※国内盤・輸入盤、現役・故人、国籍問わず、2014年1月~6月に発売されたCDからセレクト
10位:ブリュッヘン(指揮) モーツァルト:交響曲第39・40・41番
古楽の巨匠による集大成。歓喜のモーツァルト
タワーレコード 北村さん(以下、北):フランス・ブリュッヘンは古楽器オーケストラを率いたパイオニアの一人で、自身のオーケストラである18世紀オーケストラを結成し、最初期に録音したのがこれらモーツァルトの後期交響曲。今回は正に総決算的ですよね。
山野楽器 峯岡さん(以下、峯):ですよね。彼が最晩年の時期に来て、音楽が以前に増して柔らかくマイルドになって、本当に素晴らしいですね。丸くなったというか、手慣れた感じというのですかね。バッハの再録音などでも感じましたが、初期の頃に比べて、聴かせどころをうまく聴衆にアピールできるようになったというか。
HMV 久保さん(以下、久):元々、方向性として、同じく古楽指揮者として著名なアーノンクールはとんがっていましたけれど、ブリュッヘンは柔らかさを持っていて、今回更に、という感じですよね。
大:本当に。これは2010年、75歳の時のライブ演奏ですけれど、とてもみずみずしい。木管の美しさとかも聴き惚れますね。
峯:メンデルスゾーンの録音などもそうでしたけれど、一つ一つの音楽の流れが昔と比べてとてもスムーズになっていて、オリジナル楽器のオーケストラとは思えないような一体化された感じの魅力があると思いました。
久:確かにオリジナル楽器とは思えないですね。東京芸術劇場で演奏してCDにもなったモーツァルトのレクイエムも素晴らしかったですね。昨年2013年が18世紀オーケストラとの最後の来日とのことで、寂しいですね。
峯:センチメンタルな感情が入ってしまうところもありますね。まだまだ元気でやってほしいですが。これらモーツァルトの最後の交響曲3曲は、重要かつ名盤も既に多数あるので、よほど自信があり、世に問う意味があるものしか出せないのではと思います。そうした中で非常に存在感がある。個人的にオリジナル楽器の演奏に目覚めさせてくれたのが80年代の彼らの初来日公演で、また、18世紀オーケストラという名前ですから、モーツァルト、ハイドンがこのオーケストラのメインですよね。そんな中でブリュッヘンの本当に総決算の感動的な録音でした。
北:今年出た数あるモーツァルト録音の中でも多分1、2位を争う盤になるのではないかと思います。ブリュッヘンは過去にも名盤はたくさんありますけれど、これは代表的な盤と言えると思いますね。
大:初めてモーツァルトのCDを買う人にもオススメできる、ブリュッヘンを知らない人が聴いても「すごい」と感じられる盤ですよね。あと、久保さんがおっしゃったように、古楽ってとんがった人が多く、言い方が変ですけれど、ヒール(悪役)の方が目立つような中で、善人として良いものを出し続けてきて、その到達点だと思いました。
※この座談会の後の2014年8月13日にブリュッヘンが惜しくも亡くなりました。ご冥福をお祈りいたします。
※該当CDのwebページをランダムに記載しています(以下同)
山野楽器
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タワーレコード
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10位:ヘンゲルブロック(指揮) マーラー:交響曲第1番『巨人』(ハンブルク稿)
マーラーの知られざる顔。生き生きとした異稿の世界初録音
大:通常クラリネットによって演奏される最初のファンファーレからステージ外で吹かれるホルンになっていて、びっくりしました(笑)。ハンブルクはNDR(北ドイツ放送交響楽団)の本拠地ですから、この版を演奏する意気込みを強く感じますよね。
久:「俺たちがやってやるんだ」という感じが伝わりますよね。でも、版の問題を超えて、演奏自体が良かったですよね。スケルツォ(第3楽章)の躍動感など、とても好きでした。
北:そうなんですよね。版のことが先に出すぎていて、あまりそういったことに興味のない人に「別にいいかな」と思われてしまうと勿体無いですね。素晴らしい演奏でした。
峯:NDRはヘンゲルブロックの下、今までの印象と随分違うサウンドというか魅力を出していて、これだけの演奏をするオーケストラなのだと感心しました。
北:おもしろいですよね。そして、また素晴らしかったのが、国内盤に付いていた日本独自の解説ですね。輸入盤で行っていない検証が充実していて、資料的にも非常に価値がありました。音楽をデータで配信できる時代に、パッケージ商品の意味、国内盤の意義を非常に出した盤だったなと。
峯:ジャケットも、普通だとアーティスト写真が出そうなところを、初演時のポスターをデザインしたジャケットで、アカデミックな感じが逆に個性的ですね。
大:まとめると、珍しい稿だが、それに増して演奏が良い。そして国内盤のCDを買うべし!と。
北:まあ(笑)、国内盤は、より充実した内容が楽しめますよと。音と目と。
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10位:アルゲリッチ(ピアノ)&アバド(指揮) モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番&25番
旧知の仲が生み出す、温かみに満ちた至福のモーツァルト
峯:そう未だに売れていますよ。全店のクラシックチャートで、ずーっとベスト5に入っていますよ。
久:幅広い世代の人が買っていますよね。
大:ルツェルン音楽祭での2013年の録音で、モーツァルトのピアノ協奏曲の中でも人気の高い20番と25番ですね。軽やかに回るアルゲリッチはもちろんすごいですが、アバドの音の柔らかさがものすごい高みに達したという印象でした。20番の2楽章のメロディーとか熟れた桃のような甘美さが(笑)。
峯:主に大編成のモダン・オーケストラと演奏してきたアルゲリッチがアバド率いる小振りのモーツァルト管弦楽団と楽しく弾いているというのも印象的でした。ここまで温かいアルゲリッチの演奏というのは珍しいですよね。
久:あと、ジャケット裏の、若き日のアルゲリッチとアバドのツーショットの写真が衝撃(笑)。2人ともカッコ良くて。アバドはピアノに座っているし(笑)。
大:僕も音を聴く前に驚きました!
北:その若き日の後ろの写真と、ジャケット表の穏やかな顔の今の二人の写真が物語っているかのような、そのままずばりの演奏でしたね。こんな風に年を取りたいなと(笑)。
久:中に入っている写真もどれも良いですよね。
北:ポイント高いですよね。音だけでなくて視覚的な面からも楽しめる。これらの写真、本当に初めて見るものもあるんですよね。
峯:こういうセッションの時のスナップ写真って結構貴重なものがまだたくさんあるんじゃないかと思うんですよね。どんどん出してほしいな、って思います。
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