2頭の極端なレーススタイルは、大きなリスクになる
後方からの強烈な追い込みが特徴のハープスター(写真 JRA)
2014宝塚記念のレース映像(ゴールドシップはピンク帽の11番)
一方のハープスターは、先述したとおり、強烈な追い込みスタイルが身上。父のディープインパクトと同様、直線まではほぼ最後方に位置し、ラストで全馬をゴボウ抜きするパターン。ド派手なレースでおなじみです。
2014桜花賞のレース映像(ハープスターはピンク帽の18番)
独特のレーススタイルを持つ2頭の名馬。その両雄に立ちはだかるのが、今回の舞台となる札幌競馬場です。佐藤さんは、「2頭にとって、札幌競馬場は鬼門だろうな。コースとの相性はかなり悪いかもしれない」というのです。
「札幌競馬場は、とにかく最後の直線が短い。たとえば、東京競馬場は500m以上も直線があるのに、札幌は約270m。時計にすると、12秒以上は最後の直線を走る時間が違う。となると、ラストの追い込みが身上のハープスターは、直線まで仕掛けを待つわけにいかない。どうしたってカーブのところからスパートをかけなきゃならない。これは直線だけで追い込むよりずっと難しい。
また、スタートの遅いゴールドシップも、カーブの部分が多い札幌では、宝塚記念のように途中から追い上げるのは簡単じゃない。若い頃に札幌で好走しているけど、あの頃とは話が違う。2頭にとって、一筋縄ではいかないコースだよ」
極端なスタイルを持つ2頭にとって、このコース設定はプラスではありません。もちろん、札幌記念にすべてを賭けるなら、「札幌記念仕様」のレーススタイルで勝負してもいいでしょう。たとえばハープスターなら、いつものように最後方まで下げず、前目の位置でレースを運ぶなどもあるかもしれません。
しかし、ここでもいえるのは、「あくまで目標は凱旋門賞」ということ。札幌記念の勝利のためにスタイルを変えるのも難しいんです。何より、凱旋門賞が行なわれるロンシャン競馬場は、札幌競馬場と真逆の広々としたコースですから。
人間なら、レースごとにスタイルを容易に変えられますが、競馬は馬が主役。札幌記念でいつもと違うことをすれば、馬は凱旋門賞でもそのレースをしようとしてしまうかもしれません。だからこそ、札幌記念に合わせたレースをするのはリスク大。佐藤さんがノリノリで語ります。
「昔、ブエナビスタという馬がいたんだけど、これもハープスターのような追い込みスタイルで快進撃を続けた牝馬だった。そのブエナビスタも、やはり凱旋門賞を目指して札幌記念に出走した。ただ、この札幌で追い込むのはやっぱり難しかったんだな。結果は2着。格下の馬を捕まえ切れなかったんだ。そして、凱旋門賞への挑戦も取りやめてしまったんだよ」
2009札幌記念のレース映像(ブエナビスタは緑帽の11番)
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結果ではなく、凱旋門賞を見据えた2頭のレースぶりに注目を
伊藤さんと佐藤さんの話を聞いて、すっかり意気消沈していた鈴木さん。「じゃあ、必ずしも札幌記念は、2頭の一騎打ちムードではないんですね」とつぶやきました。すると伊藤さんは、なぐさめるようにこう言います。「馬がやるレースだから、人間のようにスムーズにはいかない。まして、そのレースの意味合いは馬ごとに異なるし、それぞれに思惑がある。だから、毎回全力でレースに行けるとも限らない。その背景を読み取りながらレースを見ていくと、ますます競馬は面白くなるんだ。どの馬が一番強いかだけを考えるんじゃなく、『このレースは、その馬にとってどんな意味があるのか』を探ってみると、さらに楽しいよ」
伊藤さんの話を聞いていた佐藤さんが、さらにこう続けます。
「とにかく言いたいのは、仮にゴールドシップとハープスターが大きく負けても、がっかりしないでほしいということ。凱旋門賞を見据えたうえで、この舞台できちっと勝つのは本当に難しいことなんだ。『札幌記念で負けたから凱旋門賞ではかなわない』ということではない。さっきの背景を考えれば、それも分かるはず。だから、温かい目で2頭を見て欲しいんだな。もちろん、その上で2頭が素晴らしいレースをしたら、手放しで拍手だよ」
凱旋門賞を前に、2頭のスターホースが激突する――。こんなに興奮するシチュエーションはありません。だからこそ、普段競馬を見ない人も興味を持ってくれると思います。ただ、もしそこで厳しい結果になっても、2頭への興味を失わないでほしいのです。一番言いたいのは、これに尽きます。そしてもし、2頭が素晴らしいレースをしたら、そのすごさに酔いしれてください。
凱旋門賞を前に、2頭の名馬が挑む札幌記念。レースは24日の15時25分スタートです。フジテレビ系で中継されますので、ぜひご覧を!
(リンク)
ゴールドシップ|競走馬データ -netkeiba.com
ハープスター|競走馬データ –netkeiba.com
札幌競馬場‐コース紹介|JRAウェブサイト